実家を片付けてた時に出てきた人形の話
Zさん(仮名・42歳女性・関西在住の主婦で実家は山陰)から
これは3年前の話で、話していいものか少し迷ったんですけど、最近またうちの母から人形供養の知らせが届いたのを見て、書いておこうと思いました。もし読んで気分が悪くなったら、途中でやめてもらってかまいません。
私は東海地方の山の麓の町で生まれて、いまは別の県でメーカーに勤めてます。
実家は古い家筋がいくつか残ってる地区にある。
うちはそこまで古くないけど、奥に座敷と仏間があって、桐の箪笥や古い長持がいくつか置いてある、いわゆる田舎の家。
3年前の春に、祖母が亡くなった。91だった。
父はもっと前に亡くなっていて、祖母は最後まで母と2人で実家に住んでた。
葬儀と初7日が済んで、49日のあとに、母から実家の片付けを手伝ってほしいと連絡があった。私は会社の有給を4日もらって、実家に戻りました。
片付けは奥の座敷から始めた。祖母が長く使っていた部屋で、桐の箪笥が3棹並んでる。
1番奥のいちばん古い箪笥は、私が子どもの頃から開けたところを見たことがない。
鍵はかかってなかったけど、上に古い風呂敷包みが積まれてた。
母と2人で上の荷物をどかして、引き出しを順に開けていった。古い着物と帯と、紙に包まれた帯留めがいくつか出てくる。
3段目までは普通だった。
4段目を開けたときに、奥に薄い桐の箱が1つ置いてあるのが見えた。
30センチくらいの細長い箱で、紐で10字に縛ってある。母も初めて見るらしくて、何これ、と言いました。
私が箱を引き出して、座敷の畳の上に置いた。
蓋を開けたら、中に古い日本人形が入ってる。市松人形というやつだと思います。
黒髪のおかっぱで、赤い着物。顔は陶器のようにつるっとしてて、頬のあたりに少し汚れがあって、髪が1房だけ短く切られてる。
袖の裏に、薄く字が書いてある紙が縫いつけてある。何の字かは読めません。
母がそれを見て、しばらく黙ってた。それから、これは触ってはいけない、と言ったんです。
私は、なんで、と聞きました。
母は、分からないけど、おばあちゃんが昔そう言ってたから、とだけ答える。
私はそのときは聞き流して、写真を撮るために少し人形を持ち上げたんです。手のひらに乗せて、表と裏を見て、また箱に戻しました。それだけのこと。
その夜から、おかしなことが続いた。
最初は2階の私の部屋で、夜中に板の鳴る音がするようになったんです。
古い家なので軋むのは普通だ。でも明らかに人が歩くような感覚で、足音が階段を上がってきて、襖の前で止まる。それが2晩続きました。
母に聞くと、母は何も聞こえてないと言うんです。
3日目の朝、母が、座敷の畳の上に髪の毛が1束落ちてた、と言ってきたんです。
長い黒い毛で、人形のあの1房とよく似てたそうだ。母は私には見せずに、ちり紙にくるんで処分したと言ってました。
その日は、座敷に入るのが少しためらわれた。奥の片付けはしませんでした。
4日目に休みが切れて、私はアパートに戻ったんです。
戻ってからも、夜中に枕元で、誰かが呼吸してるような音がした。耳鳴りかとも思ったんですけど、寝返りを打って耳を変えても、音の場所は枕の右側のまま。
3晩それが続いて、私は母に電話したんです。母も、人形を出してから何かおかしい、と言いました。
その週末にまた実家に戻って、母と相談して、人形を処分することにした。
最初はゴミに出そうとしたんですけど、母が、それはできない、と強く言いました。
地区の年寄りに、家の人形を捨てたら障りがある、と昔から言われてるそうだ。母は普段、言い伝えにうるさい人ではないんですけど、その時だけは譲りません。
結局、地区の氏神様の神社に持っていくことになった。
その神社では毎年3月に人形供養をしていて、町内会の連絡網でも案内が回る。3月はもう過ぎてましたけど、宮司に事情を話したら、特別に預かってくださると言ってくれました。
私と母とで、桐箱を新聞紙にくるんで車で持っていったんです。
神社で短いお祓いをしてもらった。お経のようなものを読んだあと、宮司は箱の中の人形を見て、少し難しい顔をしてる。
これはどこから来たものか分かりますか、と聞かれました。私も母も、祖母の箪笥の奥にあったとしか答えられません。
宮司は、そうですか、とだけ言って、預かりますと頭を下げてくれました。
家に戻った晩から、2階の足音は止まった。
アパートに戻ってからも、枕元の音はしなくなった。それきりです。
祖母が誰からあの人形をもらったのか、いつからあの箪笥にあったのか、最後まで分からない。
母が祖母の妹に電話で聞いたんですけど、知らない、聞いたこともない、と言われたそうです。父も生きていたら何か知っていたかもしれませんけど、もう聞きようがないんです。
あれから3年経って、母から毎年3月に人形供養の案内が転送されてくる。
私はその案内を見るたびに、あの桐箱のことを少し思い出すんです。
いまは普通に暮らしてます。ただ、実家に帰っても奥の座敷にはあまり入らない。母も、その箪笥はもう開けないと言ってます。
もし家の中から心当たりのない古い人形が出てきたら、自分で何とかしようとしないでください。それだけです。