二階の奥だけは開けなくていいと言われた空き家の話

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二階の奥だけは開けなくていいと言われた空き家の話
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Nさん(仮名・24歳男性・不用品回収の会社に勤務)からサイトの問い合わせフォームで届いた話。メールで5往復ほど追加取材させてもらった。仮名と地名ぼかし条件で承諾をいただいている。

これは去年の秋に入った現場の話で、今も引っかかってるんで書いてみます。

自分は24歳、不用品回収の会社で働いてます。空き家の片付けとか、遺品整理の手前みたいな仕事。この会社に入って二年目です。

その現場は北関東の、山のほうに入った集落でした。市街地から車で四十分くらい。田んぼが途切れて、坂を上がって、家が六軒か七軒しかない場所。

依頼主は都内に住んでる親族の方で、現地には来られないという話でした。鍵は近所の男性が預かってて、その人から受け取る段取り。

朝八時に着いたら、その男性が軽トラで来ました。七十くらい、作業着姿。挨拶して、鍵を渡されて、そのときに言われたんです。

二階の、一番奥の東の部屋。あそこは業者さんも入らんでいい、と。

理由を聞きました。そう言われとるから、という返事で、それ以上は何も。

自分と先輩の二人で入りました。

一日目は一階と、二階の手前の部屋だけで終わりました。とにかく量が多くて。仏間の簞笥、台所の食器、押し入れの布団。よくある空き家です。

変な感じは、この時点ではなかったです。

二日目の昼に、計算が合わないことに気づきました。トラックの二台目でも積みきれない。理由は単純で、あの部屋の分を最初から数に入れてなかったから。

社長に電話して、社長から依頼主に確認してもらいました。返事は、全部やってもらって結構です、と。

だから、開けました。

襖じゃなくて板の戸で、建て付けが悪くて、下を持ち上げないと動かない。

中は六畳の畳の部屋。窓に内側から板が打ってあって、昼なのに暗かったです。

畳は日に焼けてなくて、青いまま残ってました。埃も思ったほど積もってない。

荷物は段ボールが四つと、布をかけた家具がひとつ。それだけでした。

段ボールの中身は食器と、シーツと、古い雑誌。どこの家にもあるようなもの。

布をめくったら、木の戸棚でした。高さは腰くらい。両開きで、金具の留め具がついてる。仏壇かと思ったんですけど、違いました。

中は空です。棚板も一枚もない。ただの箱でした。

先輩が、これ何だろうな、と言って、自分は分かりませんと答えました。

二人がかりで運び出して、トラックの荷台へ。

現場を出るとき、あの男性が道の脇に立ってたんです。荷台のほうを見て、何も言わずに、頭を下げて、軽トラに乗って帰っていった。

会社に戻ったのが夕方で、処分場が閉まる時間だったんで、その日は自社の倉庫に降ろしました。

翌朝、シャッターが三十センチくらい上がってました。

閉め忘れかと思って先輩に聞いたら、自分が最後に降ろして閉めた、鍵もかけた、と。壊れてはいなかったです。

倉庫の中で、戸棚の向きが変わってました。降ろしたときは壁のほうを向けて置いたはずで、朝は入り口のほうを向いてた。

段ボールは動いてないんです。

その日のうちに処分場へ出しました。それで終わりだと思ってました。

先輩は自分より六つ上で、この仕事が長い人です。空き家の変な話にも慣れてて、現場で怖がってるところは見たことがなかった。

一週間くらいして、その先輩が辞めました。

理由は聞いてません。というか、聞いたけど答えてもらえなかった。家庭の事情、とだけ言われました。今も連絡自体は取れます。ただ、あの現場の話になると返事が来なくなる。

自分のほうは、家で寝てるときに、部屋の隅に誰か立ってるような感じがすることが増えました。目は開けてないんで、見たわけじゃないです。ただの気配みたいなもの。

気のせいだと思ってます。

一度だけ、深夜に留守電が入ってたことがありました。非通知で、二十秒くらい、風みたいな音が入ってるだけでした。いたずらかもしれない。

春先に、あの集落の男性に電話してみようとしたんです。何を聞くつもりだったのかは、自分でも決めてなかった。

番号は使われてませんでした。会社に残ってた連絡先を見ても同じ番号。

依頼主のほうにも聞いてもらいました。その男性とは元々そんなに付き合いがなくて、という返事だったそうです。

気になって、処分場の伝票を見返しました。

あの日の分は、重量も品目も書いてあります。木製家具は一点、簞笥として計上されてる。戸棚のことは書いてない。

事務の人に聞いたら、まとめて書くこともあるから、と。たぶんそうなんだと思います。

だから、あれが最終的にどこへ行ったのかは分かりません。

部屋を開けたのは自分たちで、開けていいと言ったのは依頼主で、入らんでいいと言ったのは名前も知らない近所の人でした。誰が悪いという話でもない。

ただ、あのとき理由を聞き返さなかったのは、少し後悔してます。

今も同じ仕事を続けてます。空き家には毎週入る。

二階の奥の部屋は、なるべく自分以外に開けてもらってます。

こっちにも、もうひとつ

林道の沢沿いで後ろから自分を呼ぶ声がして、家族の声に似ていたのに本人はずっと家にいた話

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