合宿の民宿、十一人で行って宿帳の行が十二あった話
Rさん(仮名・22歳男性・関西の私立大に通う大学生)から匿名の投稿フォームで届いた話。フォーム経由で4往復ほど追加取材させてもらった。仮名と大学名を伏せる条件で承諾をいただいている。
去年の夏、サークルの合宿で泊まった民宿の話です。オチはないです。
うちは軽音のサークルで、部員は二十人くらい。夏に二泊の合宿をやるのが恒例になってます。
去年は近場にしました。県内の山のほうにある民宿で、素泊まりが安かったんで。
行ったのは全部で十一人でした。
宿は古い二階建てです。一階に食堂と風呂、二階に客室が四つ。廊下は板張りで、歩くと鳴ります。
部屋割りは、二階の手前から三人、三人、二人、三人。僕は一番奥の三人部屋でした。
初日は普通でした。
近くの河原で花火をやって、宿に戻って、食堂で飲んで、一時くらいに解散。僕の部屋は同期の二人と僕で、布団を三つ並べて寝ました。
起きたのは三時過ぎです。
廊下を歩く音がしてました。板が鳴るんで、誰が動いてもすぐ分かる。トイレは一階なんで、夜中に降りる人がいるのは普通です。
数を数えてたんです。
眠れなかったんで、なんとなく。手前の部屋から階段のほうへ、足音が行く。しばらくして戻ってくる。それを何回か聞いてました。
十二回目で起きました。
十一人しかいないんで、十二回でもおかしくはないです。同じ人が二回行けばそうなる。頭では分かってました。
ただ、行きと帰りの数が合ってなかった。
階段のほうへ行く音を七回、戻ってくる音を五回。二回ぶん、戻ってきてない。そのあとは音が止まって、朝までありませんでした。
翌朝、同期に聞きました。
夜中にトイレ行った奴、と聞いたら、三人が手を挙げました。それぞれ一回。合わせて三回です。
僕が数えたのは七回でした。
板の鳴る音は、風でも鳴るかもしれません。古い家なんで、そういうのはあると思います。数え間違いの可能性も普通にあります。眠れてなかったんで。
宿帳のことに気づいたのは、帰る日です。
チェックアウトのときに、代表が精算をやってました。宿の人が帳簿みたいなノートを開いて、うちのページを指してました。
横から見たら、名前が縦に並んでました。
初日に、玄関で全員が一行ずつ書いたやつです。書くのは学年と名前の二つ。うちのサークルは代表が先に書いて、あとは順番に回します。
行が十二ありました。
十一人で来て、十二行。数えなおしても十二でした。
最後の一行の名前は、読めませんでした。
崩した字で、漢字が二つか三つ。名字だけなのか、下の名前まであるのかも分かりません。学年の欄は空でした。
誰が書いたか、その場で聞きました。
全員が首を振りました。ただ十一人とも、他の十人の字を把握してるわけじゃないんで、そこは断定できません。
字は、うちの誰かに似てました。
僕にはそう見えました。誰に似てるかは言いません。言うと変な話になるんで。
宿の人には聞きませんでした。
代表が精算を終わらせて、そのまま出たんで。あとで写真を撮っておけばよかったと思ってます。
サークルでは、そのうち誰も言わなくなりました。
今年も同じ時期に合宿があります。場所は別のところになりました。理由は、去年のが不便だったから、ということになってます。
行は十二でした。