父の実家で、来客用の布団を必ず一組だけ多く干す理由を誰も教えてくれない話
Kさん(仮名・29歳女性・関西在住)から、サイトのフォーム経由で届いた話。父の実家のことで、ずっと引っかかっていることがある、と。仮名と地名はぼかしている。
父の実家は、山のほうにある古い農家です。盆と正月に、家族で泊まりに行ってました。
築百年は超えている、と父が言っていました。広いのに暗くて、廊下がいつもひんやりしている家。
その家には、変な決まりがあって。
来客用の布団を干すとき、必ず一組、多く干すんです。
お客さんが二組ぶん泊まるなら、三組。誰も泊まらない日でも、最低、一組は干す。
子どものころ、私はそれを手伝わされてました。重い布団を縁側に運んで、竿にかける。最後の一組を干すとき、祖母はいつも、奥の間のぶん、と言ってた。
干す布団はどれも古くて、日に当てると、埃っぽい、少しかび臭いにおいがしました。その一組だけ、ほかのより柄が古くて。誰も使っていないはずなのに、いちばんくたびれて見えた。
奥の間というのは、いちばん北側の、ふだん使わない和室です。仏壇のある部屋の、さらに奥。
その部屋は、襖がいつも閉まってました。子どもだけで入っちゃいけない、と言われていて。仏壇のある部屋までは入れるのに、その奥だけは、だめ。
その一組だけ、夕方になると奥の間に運ばれて、敷かれます。誰も寝ないのに。
夕方、祖母がその布団を抱えて、奥の間に入っていく。襖を閉めて、しばらくして、出てくる。中をのぞこうとすると、こら、と低い声で止められました。
朝にはちゃんと畳まれて、押し入れに戻ってる。
一度、祖母に聞きました。これ、誰のぶんなの、と。
祖母は、いいから、とだけ言って、それ以上は教えてくれませんでした。
いとこも、同じことを気にしてました。あの布団、誰のなんだろうね、って。でも、大人に聞くと、みんな同じように、いいから、で終わる。
父に聞いても同じでした。昔からそうなんだ、気にするな、と。
一回だけ、朝早く起きて、奥の間をのぞいたことがあります。
布団は、もう畳まれてました。ただ、シーツの真ん中が、少しくぼんでいた気がして。
気のせいだと思います。子どもだったし、暗かったし。
それからは、のぞくのはやめました。
それでも、帰る日に車へ乗り込むとき、つい奥の間の窓を見上げてしまう。誰もいないはずの部屋。障子は、いつも閉まってました。
大人になって、父にもう一度だけ聞いてみました。
父は少し黙って、おまえも、家を持ったり守ったりするようになったら、たぶん分かる、と言いました。説明にはなっていません。
祖母が亡くなってからは、伯母がその役をやっています。布団を一組多く干して、奥の間に敷く。誰も、やめようとは言いません。
今も、お盆に行くと、布団は一組多く干されています。奥の間に、敷かれています。
誰のためなのかは、たぶん、聞かないほうがいいんだと思います。