草津、湯畑の夜の話

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草津、湯畑の夜の話
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Lさん(仮名・41歳男性・群馬県内の温泉宿で従業員)からSNSのDMで届いた話。DMで5往復ほど追加取材させてもらった。場所は群馬県吾妻郡草津町、草津温泉の中心にある「湯畑」。Lさんは「観光客が見る湯畑じゃなくて、深夜にしか見えないものの話」とのこと。場所はそのまま掲載することになった。勤務する宿の名前は本人の希望で伏せ字。本筋はそのまま。

これは去年の冬、深夜の宿の見回りをしていた時の話。

私は草津温泉の中心、湯畑から徒歩5分くらいの場所にある温泉宿で、フロントの夜勤と見回りをしています。

勤続15年。毎年冬になると、湯畑の周辺を深夜にも歩く機会が多くなる。

湯畑は、草津温泉の中心にある、源泉が湧き出している場所です。

観光客の方は、昼間と夕方のライトアップの時間帯に、この湯畑を見て、写真を撮って帰る。

深夜の0時以降になると、湯畑の周辺は、ほとんど人が通らない。

ライトアップは22時で消えて、湯畑そのものは、暗闇の中で湯気だけが立ち上っている、という状態になります。

去年の12月の中頃、深夜の1時過ぎ、私は湯畑の前を通って宿に戻る途中だった。

宿の客で、夜遅くまで街を散策して帰らない方を捜しに、湯畑の周辺まで来ていました。

湯畑の周りには、誰もいなかった。

私はベンチに座って、客が戻ってくるのを少し待つことにした。

湯気が、湯畑の表面から、ゆっくり立ち上っていました。

12月の夜は寒くて、湯気がはっきり見える時期だった。

立ち上る湯気を、ぼんやり見ていると、湯気の中に、人の形がいくつか、混ざっているように見えた。

錯覚だと最初は思いました。

湯気の動きで、たまたま人型に見える形ができることは、湯畑では珍しくない。

ただ、その夜の湯気は、いつもと違っていた。

湯気の中の人型は、湯気と一緒に上に上がっていくのではなく、湯気の中で、立ち止まって、湯畑の中を、ゆっくり歩いていました。

歩いている、という表現が、正確かどうかは分からない。

湯気の中に、人の輪郭が、いくつも、湯畑の表面の高さで、ゆっくり移動していた。

数えると、人型は7、8人いました。

私はベンチから立ち上がって、湯畑の柵まで近づいた。

湯気の中の人型は、私が近づいても、消えなかった。

ただ、人型の動きが、湯畑の中央の方へ、ゆっくり集まっていきました。

中央に集まった人型は、湯畑の源泉の湧き出し口の真上で、ひとつの大きな塊になって、上に上がって、消えていった。

私はベンチに戻って、しばらく座っていました。

湯畑の湯気は、その後はいつも通りの動きに戻って、人型は見えなくなった。

客は、結局その夜、戻ってこなかった。

翌朝、客に連絡をしたら、「友達の家に泊まった」とのことで、無事でした。

宿に戻って、先輩従業員にその話をした。

勤続30年以上の先輩で、湯畑の周辺で長年働いている方でした。

「湯畑の湯気の中に人が見えることは、よくある」と先輩は言いました。

「特に、12月から2月の冷え込む時期の、深夜の1時から3時の間」

「源泉に集まって、上に上がっていく、というパターンが多い」と。

「なんで、湯畑に集まるんですか」と私は聞いた。

先輩は「分からない」と答えました。

「ただ、湯畑の場所は、昔は湯治場で亡くなった人の供養塔があった、と聞いたことがある」と。

「いまの湯畑は観光地として整備されているけど、土地の歴史は昔から変わってない」と。

私は、湯畑が供養塔の跡地だったかどうかは、確認できていない。

ただ、深夜の1時から3時の冬の湯畑で、湯気の中に人型が見える、というのは、あの夜以降、私も何度か経験しています。

ネットで「草津 湯畑 心霊」と検索すると、観光客向けの記事と、ライトアップの写真ばかりで、深夜の話は、ほとんど見つからない。

観光地としての草津と、地元の従業員が深夜に見ている草津は、たぶん、同じ場所だけど、別物として存在しているんだと思います。

今冬、別の宿で働いている同業者から、似た話を聞いた。

湯畑から徒歩10分くらいの宿で働く50代の女性で、同じ時期、深夜の見回りで、湯畑の前を通った時に、湯気の中の人型を見たと。

ただ、彼女が見たのは、人型が湯畑の中央に集まっていく場面ではなく、湯畑の外側、参拝客が手を合わせる場所、その辺りに、湯気の中から、ひとりの人型が、こちらを向いて立っていた、と。

「湯畑の中で集まっていく方は、上に上がっていくけど、外側で立つ方は、こっちを見ている」と、彼女は言いました。

私はあれ以来、深夜の湯畑の外側を、見ないようにしています。

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