深夜のバス停で動かない男に声をかけたら、その路線は何年も前に廃止されていた話

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深夜のバス停で動かない男に声をかけたら、その路線は何年も前に廃止されていた話
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Kさん(仮名・35歳男性・出張の多い会社員)から、サイトのお問い合わせフォームを通じて届いた話。仮名と、路線名や町の名前をぼかすことを条件に、書かせてもらうことにした。

自分は普段、地方の取引先を月に何度か回っている。その日も商談が長引いて、帰りがだいぶ遅くなった。

駅に着いたのが夜の十一時過ぎ。タクシーがつかまらなくて、宿のある方角へとりあえず歩き出した。

知らない土地で、街灯も少ない。スマホの地図を頼りに、田んぼの脇の細い道を進んでいた。

十五分くらい歩いたところに、古いバス停があった。木の柱と、トタン屋根の小さな待合所。

待合所には木のベンチが一脚だけ置いてあって、そこに人がひとり座っていた。

夜の十一時半を回った頃だったと思う。こんな時間に、と少し意外に感じた。

暗くて顔まではよく見えなかった。コートを着た男の人で、こちらを見るでもなく、ただ前を向いて座っていた。

自分はその待合所の前を通り過ぎようとして、道に迷っていたこともあって、つい声をかけた。

この辺で、まだ動いている店かタクシー乗り場はないか、と聞いてみた。

返事はなかった。聞こえなかったのかと思って、もう一度、少し声を大きくして聞いた。

それでも、その人は前を向いたまま、まったく動かなかった。

酔って眠っているのかもしれない。深入りするのもよくないと思って、自分はそのまま歩き出した。

五歩ほど進んでから、なんとなく振り返った。男の人はさっきと同じ姿勢で、こちらを見ていなかった。

宿に着いて、ふと気になって、さっきのバス停のことを調べた。地図のアプリで、その場所のバス停の名前を出してみた。

路線の情報が出てきて、運行している会社の名前は載っていた。ただ、時刻表のところに、運行を取りやめた旨の短い文が書いてあった。

日付まではよく覚えていない。とにかく、その路線は何年か前に廃止されていた、ということだけは分かった。

つまり、自分が通った時間に、あのバス停にバスが来ることはない。終バスどころか、もう何年もバス自体が来ていない。

あんな遅い時間に、来ないバスを待っている人がいたのか、と思った。事情があるのかもしれないし、自分には分からない。

気になったのは、声をかけた時のことだった。あの人は、自分の声に一度も反応しなかった。

翌朝、宿を出る前に、明るいうちにもう一度あのバス停を見ておこうと思って、同じ道を戻ってみた。

待合所は昨日と同じ場所にあった。色の褪せた時刻表が一枚、画鋲で留めてあるだけで、人はいなかった。

ベンチに近づいて、なんとなく座面に手を置いた。木の表面が、その一か所だけ、ほんのり温かかった。

朝の早い時間で、まわりの空気はまだ冷たかった。屋根の下のベンチが日に当たる向きでもなかった。

自分が触ったのは、昨日あの人が座っていた、ちょうどそのあたりだったと思う。

温かかったのが何のせいなのかは、調べていない。誰かが直前まで座っていたのか、それとも別の理由なのか、確かめる気にもならなかった。

その路線がなぜ廃れたのか、あの待合所に何かあるのか、地元で何か言われているのか、自分は知らない。出張で一度通っただけの場所だ。

あれから半年ほど経つ。同じ取引先には今も通っているけれど、駅からの帰りに、あの道だけは使っていない。

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