静岡・旧天城トンネル、霧の夕方に壁際で立っていた人の話

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静岡・旧天城トンネル、霧の夕方に壁際で立っていた人の話
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Fさん(仮名・38歳男性・静岡県内で林業関係の仕事)からメールで届いた話。メールで5往復ほど追加取材させてもらった。仮名を条件に承諾をいただいている。場所は本人の希望で実名のまま掲載している。

静岡の旧天城トンネルです。心霊スポットとして名前が挙がる場所なんで、その手の話を期待されると外れます。

先に説明します。旧天城トンネルは明治に開通した石造りの隧道で、国の重要文化財に指定されてます。今は歩行者と、条件付きで車が通れる。夜間は照明が落ちます。

僕は仕事で近くの山に入ります。年に何度かは通る道です。

去年の十一月、夕方に一人で通りました。

作業が押して、下りたのが十六時半すぎ。この時期は暗くなるのが早くて、トンネルに入る頃には中は真っ暗でした。

車のライトだけで進みます。

全長は四百メートルちょっとで、まっすぐです。入り口から出口の明かりが見えます。

その日は、見えませんでした。

霧が出てたんだと思います。ライトの光が手前で拡散して、五十メートル先くらいで白く途切れる。山の中ではよくあることなんで、速度を落として進みました。

中ほどで、人が立ってました。

路肩というか、壁際です。こちらを向いてるのか背を向けてるのかは分かりません。上下とも暗い色の服で、輪郭だけが見えました。

夜間に歩いてる人は珍しくないです。

旧道は散策路にもなってるんで、遅くまで歩いてる人はいます。ただ十六時半すぎで、この霧で、照明も無い中を歩くのは、あまりない。

徐行してすれ違いました。

窓は開けてません。目も合わせてないです。田舎の道で夜に人とすれ違うとき、こっちが変に気をつかうと相手も怖いんで、普通に通り過ぎるようにしてます。

抜けてから、少し気になりました。

怪我をして歩いてる人だったら、声をかけるべきだった。ミラーで見ようとしましたけど、霧で何も見えませんでした。

その日はそのまま帰りました。

翌週、同じ道を昼間に通りました。

明るいと全体が見えます。壁際に人が立てるだけの幅はあります。ただ、あの位置は待避所ではなくて、ずっと石積みの壁が続いてるところでした。

ちょうどその辺りに、花が置いてありました。

缶に挿したもので、新しくはないです。枯れてました。誰かが手向けたものだと思います。この道でいつ何があったかは、僕は知りません。

地元の年配の人に聞いてみました。

旧道で事故があったことはある、と言われました。ただそれが何年のどこかは、その人も覚えてないそうです。

花のことも聞きました。

見たことはある、誰が置いてるかは知らない、との返事でした。

今も同じ道を通ります。

夜に通るときは、その辺りだけ少し速度を落とします。歩いてる人がいたら困るんで。

あれから、誰も立ってません。

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