旧吹上隧道、ミラーに映る方の話

約5分
旧吹上隧道、ミラーに映る方の話
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Eさん(仮名・51歳男性・東京都内で個人タクシーの運転手)から、電話で1回約50分。場所は東京都青梅市と西多摩郡日の出町をつなぐ旧吹上トンネル(旧吹上隧道)。1907年完成、現在は車両通行止めの古いトンネルで、心霊スポットとして首都圏では広く知られている。Eさんは「噂はずっと聞いてきたが、自分の体験はネットに出てる話とは違う」とのこと。場所と噂はそのまま掲載することになった。乗せた客の特徴の細部は本人の希望で伏せ字。本筋はそのまま。

これは去年の冬、深夜の話で、もう半年以上経ったんですけど、まだ整理できてないので書いておきます。

俺は東京都内で個人タクシーをやってる、もう25年になる。

深夜便を担当することが多くて、青梅・五日市方面の客を乗せることもある。

旧吹上トンネル、というのは知らない人は少ないと思う。

青梅と日の出町をつなぐ古いトンネルで、明治40年完成、車両は通行止めになって久しい。

夜中にトンネルの前まで車で行くと、ミラーに女性が映るとか、抜けた後にエンジンがかからなくなるとか、有名な話がいくつもある。

個人タクシーの仲間内でも「あそこは行くな」と言われていて、俺も観光客に頼まれない限り、近くまでは行かない。

去年の12月の終わり、午前2時過ぎに、青梅駅前で客を拾った。

60代くらいの男性で、コートを着て、革のカバンを持ってた。

「日の出町の上の方まで」と言われた。

深夜にしては不自然な行先だったけど、こっちは商売だから、特に聞かなかった。

車を出して、国道411号を下っていく途中で、客が「旧吹上トンネルの方に行ってもらえますか」と言った。

俺は一瞬、断ろうかと思った。だけど、客の声は落ち着いていて、決して怪しい感じじゃなかった。

ナビには出ない旧道の入口で、客が「ここで止めて」と言った。

封鎖された旧トンネルの入口は、ヘッドライトで照らすと、鉄柵と落ち葉がはっきり見えた。

客はメーターを見て、料金を払って、車を降りた。

「迎えはいらない」と。

俺は車を旋回させて、来た道を戻りはじめた。

旋回の途中、ミラーに映ったのは、降りたはずの客だった。

60代男性、コート、革のカバン。

ただ、客はトンネルの方じゃなくて、俺の車の後部座席の窓を、外から覗いていた。

降りたばかりの客が、俺の車を覗いている。

俺はブレーキを軽く踏んで、サイドミラーを確認した。

サイドミラーには誰も映っていない。

もう一度、バックミラーを見た。

後部座席の窓に、男性の顔が、外側から、はっきり貼り付いていた。

俺はアクセルを踏んで、その場を離れた。

走り出してからしばらく、バックミラーを見ないようにしていた。

国道に戻って、5分くらい走ってから、初めてミラーを見直した。

後部座席の窓には、誰もいなかった。

ただ、後部座席の方が、なんとなく重く感じた。

誰かが座っているような、空気のたまり方だった。

俺は青梅駅前まで戻って、車を止めて、降りて、後部座席のドアを開けた。

誰もいなかった。

シートには、客の革のカバンが置かれていた。

降りた時に、客はカバンを持って降りていったはずだった。

俺は後部座席に手を伸ばして、カバンに触れた。

カバンは冷たかった。

12月の深夜だから冷たくて当然なんだけど、その冷たさは、外気温じゃなくて、もっと内側からの冷たさだった。

俺はカバンを駅前の交番に届けた。

中身は、古い手帳と、鍵の束と、それから一枚の写真だった。

写真は、旧吹上トンネルの入口で、若い頃の客と、もう一人の男性が並んで写っていた。

もう一人の男性は、客と同じくらいの年齢で、似た顔立ちだった。

兄弟か、と思った。

交番の警察官は、カバンの中身を確認して、「持ち主が分かったら連絡します」と言った。

それから半年経って、警察からの連絡は来ていない。

俺はそれ以来、旧吹上トンネルの方には行っていない。

ネットで「旧吹上トンネル」と検索すると、いまも「ミラーに女性が映る」「トンネル内で異音」みたいな話ばかり出てくる。

俺が体験したのは、女性じゃない。降りた客が、外から覗いていた。

その客が、本当に俺を呼ぶためだけに、深夜に旧トンネルに行きたがったのかは、いまも分からない。

あれから半年経った今年の春、俺の個人タクシーに、若い女性の客が乗ってきた。

行き先を聞くと、奇しくも青梅の方だった。

後部座席のドアの脇に、あの夜の革のカバンと同じ柄の、小さな手提げを置いていた。

気のせいかもしれない。ただ、その客は青梅駅の手前で「やっぱり、ここで降ります」と言って、降りていった。

そっちの話は、まだ整理できていない。整い次第、もう一度書こうと思う。

こっちにも、もうひとつ

旧伊勢神トンネル、3度目の話

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