旧伊勢神トンネル、3度目の話

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旧伊勢神トンネル、3度目の話
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Yさん(仮名・42歳男性・愛知県豊田市在住・自動車部品メーカー勤務)からSNSのDMで届いた話。DMで4往復ほど追加取材させてもらった。場所は愛知県豊田市と岡崎市の境にある「旧伊勢神トンネル」。大正時代に完成した古いトンネルで、心霊スポットとして紹介されることもあるが、地元の郷土史的には別の意味を持つ場所でもあるらしい。Yさんは「3度通ったうちの、3度目だけ違った」とのこと。

これは私が30代の半ば頃、5、6年前の話なんですけど。

私は愛知県の豊田市に住んでいて、自動車部品メーカーで働いてます。

30代の頃、休みの日に、車で近郊をふらっと走るのが趣味でした。

目的があって走るんじゃなくて、地図上で気になった道を、行ってみる、という感じ。

旧伊勢神トンネルというのは、豊田市と岡崎市の境にある、古いトンネルです。

大正時代に完成した、と聞いたことがある。

国道301号の旧道で、いまは新しいトンネルがあるから、旧道は車もほとんど通らない静かな道です。

トンネルの中は素掘りに近くて、レンガとコンクリートの補修跡が混じってる、不思議な感じ。

私は3回、このトンネルを車で通ったことがあります。

1回目は5、6年前の春。地図で見つけて、興味本位で行きました。

昼間で、トンネルの中は薄暗いんですけど、対向車もなくて、特に何もなく通り抜けました。

「古いトンネル、いいな」くらいの感想でした。

2回目は、その年の秋。一度通った道だから、紅葉を見に、と思ってもう一度行きました。

夕方の4時くらいで、ちょうど日が傾く時間でした。

トンネルの入口にも、出口にも、誰もいませんでした。

トンネルの中を通り抜ける時、ヘッドライトの光が、コンクリートの壁に反射して、ちょっと不思議な感覚はあったんですけど、何かが起きたわけじゃない。

通り抜けて、岡崎側の旧道を下りながら、私はあの感覚を「夕方のせいだ」と片付けました。

3回目は、その翌年の夏でした。

梅雨明けすぐの、晴れた日の午前中。

私は朝の10時頃、豊田側からトンネルに入りました。

1回目、2回目と同じ道。

トンネルに入って、半分くらい走ったところで、私は急ブレーキを踏みました。

前方、ヘッドライトの光の先、私の車線の中央に、子どもが立ってました。

5、6歳くらいの男の子で、半袖の白いシャツに、半ズボン。

服装が、夏なんだけど、明らかに最近のものじゃない。

昭和の、もっと言えば、戦前くらいの服装でした。

男の子は、こちらを見てなかった。

トンネルの天井の、何もない一点を、見上げていた。

私はブレーキを踏んだまま、5秒くらい、男の子を見ていました。

5秒経って、もう一度ヘッドライトの先を見ると、男の子はいませんでした。

消えたのか、走り去ったのかは、分かりません。

私はそのまま、トンネルを抜けた。

岡崎側に出てから、私は車を路肩に止めて、しばらく座っていました。

ハザードを点けて、エンジンは切らずに、ハンドルを握ったまま、20分くらい。

なぜ怖くなかったかと言うと、男の子が、こちらを見ていなかったからです。

私を見てなかった。トンネルの天井を見ていた。

私とは関係のない場所で、何かを見上げていた、という感覚でした。

家に帰ってから、ネットで「旧伊勢神トンネル」を調べました。

出てくるのは、白い人影を見た、女性の霊がいる、車のトラブルが多い、そういう一般的な心霊スポットの話でした。

後日、地元の郷土史を調べてくれた知り合いが教えてくれたんですけど、旧伊勢神トンネルは大正時代の工事中に複数の作業員の事故があった、という記録が残ってるらしい。

ただ、子どもの事故の記録は、見つからなかった、と。

5、6歳くらいの男の子が、夏に、半袖の白いシャツと半ズボンで、トンネルの天井を見上げていた、という話は、ネットにも郷土史にも、どこにも出てきませんでした。

私はそれ以来、旧伊勢神トンネルを通っていません。

怖いから、というよりは、「私が3回目に行った時に、男の子の方が私を見てなかった」という感覚が、頭から離れないからです。

あの男の子は、もう一度行ったら、まだそこで天井を見上げてる気がして、それを私が見てしまうのが、申し訳ない。それが正確な気持ちです。

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