親戚の家、屋根裏に置かれた31冊の日記の話

約4分
親戚の家、屋根裏に置かれた31冊の日記の話
目次
  1. 叔母の他界、家の整理
  2. 屋根裏収納、段ボール一箱
  3. 中身は知らない人の日記
  4. 家族の誰も、彼女のことを知らない
  5. 31冊、空白なく続く記録
  6. 31年目の最後の日記
  7. 市役所への確認、Aさんの記録
  8. 叔母の家、Aさんの部屋
  9. 31冊の日記、寺に預けた
  10. 叔母が話さなかった理由
  11. 家の売却、Aさんの部屋は元のまま
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Yさん(仮名・44歳女性・徳島県の薬剤師)から届いた話。亡くなった叔母の家の屋根裏で見つけた、見知らぬ人物が31冊書き続けた日記の話。

叔母の他界、家の整理

Yさんの叔母は、独身のまま82歳で他界。徳島県内の戸建てに長く住んでいた。両親はすでに他界しており、姪のYさんが家の整理を担当することになった。
叔母の家は築60年の和風建築。Yさんは1か月かけて、家財道具を片付けていった。

屋根裏収納、段ボール一箱

整理の最終週、Yさんは屋根裏収納を確認した。古い段ボール箱が3つ、その奥に、もうひとつ、もっと古い段ボール箱があった。
箱の中身は、革張りの日記帳、31冊。背表紙に年号と通し番号、1985年から2015年まで、空白なく並んでいた。

中身は知らない人の日記

Yさんが1冊目を開いた。書き手の名前は、叔母ではない。聞いたこともない女性の名前。
『1985年4月3日。今日から、ここで暮らすことになった。○○さん(叔母の名前)が、二階の南向きの部屋を貸してくれた。家賃は月3万円、食事は別』
つまり、叔母の家に下宿していた女性の日記だった。

家族の誰も、彼女のことを知らない

Yさんは父(叔母の兄)に確認した。
「父も、伯父も、誰も知りませんでした。叔母が30年以上、誰かを下宿させていた、という事実自体、家族の誰にも話していなかった」
叔母は、家族との接点が薄い人だった。年に2、3回会う程度。下宿人の存在を、本気で隠そうと思えば、隠せる距離感だった。

31冊、空白なく続く記録

31冊の日記は、毎日のように続いていた。下宿人の女性の名前はAさん(仮名)。職業は、近所のスーパーのレジ係。生涯独身。
日記の内容は、ほぼ淡々とした生活の記録。仕事、食事、本、テレビ、月に一度の通院。叔母との会話も、数行ずつ記録されていた。

31年目の最後の日記

31冊目(2015年)の最後のページ。
『2015年8月13日。検査結果が出た。あと数か月、と先生に言われた。○○さん(叔母)には、まだ話していない。話す前に、最後の食事を一緒に作りたい』
その日付以降、書き込みは無い。

市役所への確認、Aさんの記録

Yさんは、Aさんの本名を市役所で確認した。
2015年9月、市内の病院で他界。81歳。葬儀は市の福祉部が手配、参列者は叔母(当時の70代)のみ。墓は市営墓地に。
「叔母は、最期まで、Aさんを家族として送り出していました。それを、本当に誰にも話さなかった」

叔母の家、Aさんの部屋

Yさんは、家の二階の南向きの部屋(Aさんが借りていた部屋)を改めて見た。本棚に、Aさんが読んでいたであろう古い文庫本、机の上に、Aさんの眼鏡。30年以上の住人の痕跡が、そのまま残っていた。
「叔母は、Aさんが亡くなってから10年、その部屋をそのまま保存していたみたいです」

31冊の日記、寺に預けた

Yさんは、家の売却前に、31冊の日記を地元の寺に預けた。書き手のAさんの墓のある同じ市内の寺。
「家族の誰も知らない人の30年分の日記を、私が個人として保管するのは、違うと思いました。然るべき場所に納めることで、Aさんと叔母の関係を、終わりにしました」

叔母が話さなかった理由

Yさんが、最後にもう一度、父に聞いてみた。叔母がAさんのことを話さなかった理由について、何か心当たりはないか、と。
父はしばらく考えて、こう答えた。「俺たち兄弟は、お互いに踏み込まない関係だった。叔母は、自分の人生は自分で完結させたかった人だった、と思う。Aさんは、たぶん、叔母にとってのもう一人の家族だった。それを、わざわざ俺たちに説明する必要がない、と判断したんだろう」

家の売却、Aさんの部屋は元のまま

Yさんは家を2026年4月に売却。買い手の若い夫婦に、Aさんの部屋についてだけは詳細を伝えた。買い手は『そのままお預かりします』と言ってくれた。
「叔母が30年以上守ったものを、私が次の人に渡せた気がします。それで、私の役目は終わりました」

こっちにも、もうひとつ

山小屋に置かれていた古いラジオ、毎年同じ放送が流れる話

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