始発のバスに毎朝一本だけ傘がある、雨の日には無い話

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始発のバスに毎朝一本だけ傘がある、雨の日には無い話
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Sさん(仮名・47歳男性・地方都市の路線バス運転手/勤続十九年)からサイトの問い合わせフォームで届いた話。メールで5往復ほど追加取材させてもらった。仮名と営業所名を伏せる条件で承諾をいただいている。

怖い話ではないと思います。四年ぶん手帳に付けてるんで、それで送ってみました。

私は路線バスの運転手です。担当は始発便が多くて、朝の四時半に営業所へ入ります。

始発の前にやることが決まってます。

点呼、アルコールの検査、車両の外周点検。それから車内に上がって、忘れ物と落下物の確認。座席の下と網棚を、前から後ろまで見ていきます。

傘が一本、置いてあるんです。

毎回ではないですけど、ほとんどの朝。網棚か、後部の二人掛けの足元。どちらかに一本だけ立ってるか、寝かせてある。

前夜の最終便の忘れ物だと、最初は思ってました。

最終便のあと、車庫に入れる前に清掃と車内確認が入ります。担当は日によって違いますけど、記録は残る。傘があれば忘れ物として台帳に上げるので、朝の私が見つけることは本来ありません。

夜の記録には、何も載ってない朝が多いです。

台帳に上げました。日付、車番、品名、拾得場所。うちは忘れ物を一定期間預かって、そのあと警察に届けます。傘は数が多いんで、まとめて出します。

翌朝、また一本ありました。

そこから手帳に付け始めました。四年ぶんで、六百本を超えてます。同じ傘が戻ってきたことは、たぶんありません。

たぶんというのは、傘の見分けが完全にはつかないからです。

ビニール傘が多いです。骨の数も、持ち手の形も、コンビニで売ってるようなもの。ただ全部が同じではなくて、折りたたみが混ざる日もあるし、子供用の柄物が入ってる朝もありました。長さも太さもばらばら。

一本、というところだけが動きません。

二本あった朝は、四年で一度もないです。ゼロの朝はあります。

気づいたのは、ゼロの朝の条件でした。

雨が降ってる朝は、無いんです。

手帳と気象台の記録を照らしました。前夜から朝までに雨が降った日は、傘が置かれてない。降らなかった日は、ほぼ置かれてる。四年で例外が三日ありました。その三日は、明け方に降り出した日でした。

逆じゃないかと思いました。

雨の日こそ傘の忘れ物が増えるはずなんで。実際、日中の便の忘れ物は雨の日に跳ね上がります。私が見てるのは、それとは向きが逆ということになります。

営業所で話しました。

同じことを言う人はいませんでした。ただ始発を担当してるのは私を含めて三人で、あとの二人は網棚まで見ないそうです。見てないなら無いのと同じなんで、そこは何とも言えません。

車内のカメラも確認しました。

録画は一定期間で上書きされます。残っていた分を早送りで見ました。最終便が終わって、清掃の人が入って、出ていく。それから朝まで、画面は変わりません。

傘が映る瞬間は見つかりませんでした。

カメラは前方と中扉の二台で、後部の足元と網棚は画角の外です。だから映らないだけだと思います。

今も付けてます。

今朝は晴れで、後部の足元に黒い折りたたみが一本ありました。台帳に上げて、いつも通り出庫しました。

明日は雨の予報です。

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