庭の一角だけ、毎年同じ日に霜が降りる
Hさん(仮名・62歳女性・九州の南寄りに在住)から手紙で届いた話。そのあとメールで4往復ほど追加取材させてもらった。仮名と地名を伏せる条件で承諾をいただいている。
庭の話です。怖い話ではありません。
退職してから庭いじりを始めました。十年くらいになります。野菜も少し作りますし、花もやります。
ノートを付けてるんです。
何をいつ植えたとか、いつ花が咲いたとか。天気も書きます。園芸の本に、記録を付けると翌年の役に立つと書いてあったので。
うちのあたりは、霜がほとんど降りません。
南のほうなので、冬でも暖かいです。降りる年もありますけど、朝に白くなるのは数えるほどでした。
庭の北東の隅だけ、毎年降ります。
畳一枚ぶんくらいの範囲です。四角い形で、そこだけ真っ白になります。
気づいたのは九年前でした。
朝に庭に出て、あら、と思いました。他は普通なんです。その一角だけ白い。
そのときはノートに書いただけでした。
霜、と一言。日付と一緒に。よくあることだと思ってました。
翌年も、同じ日でした。
そのときにノートを見返して、去年と同じだと気づきました。十二月十四日です。
それから毎年見てます。
九年ぶんです。九年とも十二月十四日でした。前の日も次の日も、降りてません。その一日だけです。
範囲も変わりません。
だいたい畳一枚ぶんです。少し大きい年も小さい年もありますけど、四角い形は同じでした。外にはみ出したことはありません。
その隅には何もありません。
草が生えてます。石とか、木とか、そういうものは無いです。日当たりは悪いほうですけど、日陰というほどでもありません。
息子に聞きました。
大学で建築をやっていて、地面のことも少し分かるそうです。写真を送って、見てもらいました。
地面の冷え方だろう、と言われました。
土の下に石の層があったり、水はけが違ったりすると、そこだけ熱が逃げやすくなることがあるみたいです。私は詳しくないので、そこは分かりません。
その説明で納得してます。
実際、土は違う気がするんです。掘り返したことはないですけど、雨のあとで乾くのが早いのはその隅でした。
掘ってはいません。
調べようと思えば掘れるんですけど、そこまでする気にならないんです。草も生えてますし、困ってるわけでもないので。
日付のところは、分かりません。
冷えた日に降りるのなら、年によって前後するはずだと思うんです。九年とも同じ日というのは、どういうことなのか。
その日が特別寒いわけでもありません。
ノートに気温も書いてます。十二月十四日が、その年で一番寒い日だったことはありませんでした。もっと寒い日は他にあります。
他の場所には降りません。
もっと寒い朝でも、庭全体が白くなったことはないです。あの隅だけが、あの日だけ白くなります。
去年も降りました。
十二月十四日の朝です。写真も撮りました。ノートには九年目、と書いてあります。
その日だけ、早起きするようになりました。
六時前に庭に出ます。日が当たると溶けてしまうので。
お茶を持って、縁側から見てます。
白いうちは、きれいなんです。