祖父の納屋の桐箱に、家系に無い名字の位牌が入っていた話

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祖父の納屋の桐箱に、家系に無い名字の位牌が入っていた話
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Mさん(仮名・41歳男性・北関東の実家を相続、現在は同じ県内在住の自営業)からメールで届いた話。半年ほどかけて8往復ほど追加取材をさせてもらった。仮名と地名ぼかしを条件に承諾をいただいている。

祖父の家の納屋にある箱の話です。怖い話なのかは自分でも分かってません。ただ処分の話が出てきたので、その前にどこかへ書いておきたくて連絡しました。

祖父が亡くなったのは、僕が高校生の時でした。

家は北関東の農村部で、母屋と納屋と、裏に小さな畑。祖母は祖父より前に亡くなってます。相続でうちの父が引き継いで、父が去年亡くなったんで、今は僕の名義。

納屋の整理を始めたのは、去年の暮れです。

農機具と、肥料の袋と、古い建具。ほとんどが処分するものでした。奥の棚の一番上に、木の箱がありました。

桐だと思います。

縦が三十センチくらい、横が二十センチくらい。蓋は上に乗せるだけの作りで、留め具はありません。表には何も書いてない。埃はかぶってましたけど、木は傷んでませんでした。

開けたら、位牌が一つ入ってました。

黒い塗りで、よくある形。金色の文字が縦に入ってる。裏を見たら、俗名と、没年月日が書いてありました。

名字が、うちと違うんです。

祖父の家の名字ではありません。母の旧姓でもない。祖母の旧姓とも違います。没年は昭和二十年代で、年齢の記載だと二十歳そこそこでした。

最初は、誰かから預かったものだと思いました。

田舎だと、そういうことがあると聞きます。家が絶えるときに近所が引き取るとか、寺に納めるまで置いておくとか。祖父はそういう役を引き受ける人だったんで、有り得ると思いました。

親戚に聞いていきました。

父の兄、つまり伯父が健在です。八十近い人。電話で聞いたら、あの箱か、と最初に言われました。

知ってるのかと聞いたら、あるのは知ってる、中身は知らない、との返事でした。

開けたことはないそうです。

子供の頃から棚にあって、触るなと言われていた。誰に言われたかは覚えてない。祖父ではなかったと思う、と言ってました。

父の妹にも聞きました。

叔母は、箱そのものを覚えてませんでした。ただ位牌の名字を伝えたら、少し黙ってから、聞いたことがある名前だと言いました。

どこで聞いたかは思い出せない、と。

近所にその名字の家があるかどうかも調べました。

今はありません。集落は十軒ちょっとで、名字は五種類くらいに固まってます。市の図書館で古い地区の名簿を見せてもらいました。昭和三十年代のものまで遡って、その名字は出てきませんでした。

菩提寺にも行きました。

うちの家の檀那寺です。住職に位牌の写真を見せて、過去帳に該当があるか聞きました。

無い、との回答でした。

位牌の作りについては、この地域でよく使われた型だと言われました。時期も昭和二十年代なら合う、と。ただ誰の位牌かは、寺の記録からは分からないそうです。

他家の位牌を預かる例はあるか聞きました。

あると言われました。引き揚げや戦災で身元の確認が取れないまま、縁のあった家が持っていることがある。そういう場合は記録に残らないことも多い、との説明でした。

それで一応、説明はついたんです。

戦後のどこかで、祖父か、その前の代が誰かの位牌を引き取った。事情を知る人はもう亡くなっていて、箱だけが残った。筋は通ってます。

納屋の整理は続けました。

箱は元の棚に戻しました。処分するにも、他人の位牌を勝手に捨てるのは違うと思ったんで。寺に相談して、いずれ納める方向で考えてました。

気になったのは、そのあとです。

年明けに、伯父から電話がありました。

納屋の箱を動かしたか、と聞かれました。動かしたと答えたら、蓋は乗せたか、と。乗せたと言ったら、それならいい、と言って切られました。

掛け直して、どういう意味か聞きました。

伯父は、昔いっぺん蓋がずれてたことがある、と言いました。祖父がそれを見て、その日は一日、納屋に入らなかったそうです。

理由は聞いてない、との返事でした。

僕は三月にもう一度、納屋に行きました。

棚の上を見たら、蓋が三センチくらいずれてました。

納屋は施錠してません。うちの納屋は昔から鍵をかけない造りで、引き戸に掛け金が一つ。誰でも入れます。だから人が触った可能性のほうが高いと思ってます。

位牌はそのまま入ってました。向きも、記憶と同じでした。

蓋を戻して、その日は帰りました。

四月に見たときは、ずれてませんでした。五月も六月も、そのままです。

寺との相談は続いてます。

住職は、納めるのは構わないと言ってくれてます。ただ、家の側で引き取った経緯が分からないままだと、供養の形を決めにくいそうです。もう少し調べてからにしましょう、という話になってます。

伯父はそれ以上、何も言いません。

叔母は、名前を思い出せたら連絡すると言ってました。まだ連絡は来てません。

位牌の名字は、ここには書けません。

遺族が生きている可能性があるんで。寺と相談してそう決めました。

納屋の整理は、ほとんど終わりました。

農機具も建具も出して、床も掃きました。棚も一つずつ空にして、最後に一番上の段だけが残ってます。

箱はまだそこにあります。

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