山小屋に置かれていた古いラジオ、毎年同じ放送が流れる話
目次
Wさん(仮名・55歳男性・北海道在住の自然写真家)から届いた話。夏に通う山小屋に置かれている古いラジオから、毎年同じ時刻に同じ放送が流れる経緯。
20年以上通う山小屋
Wさんは北海道内の山岳地帯で野生動物の写真を撮る写真家。20年以上前から、毎年7月から9月にかけて、特定の山小屋に長期滞在している。
山小屋は管理人常駐ではなく、登山者が自由に使える共用施設。Wさんは、夏の間、ほぼ独占的に使っている。
木製の棚に古いラジオ
山小屋の木製の棚に、古いラジオが1台ずっと置かれている。1980年代のソニー製ラジオ。電池駆動。
「私が初めて山小屋を訪れた20年前から、そこにありました。たぶん、もっと古くからあったんだと思います」
ある夏の深夜、突然鳴り始めた
数年前の夏、深夜2時頃、Wさんが寝ていた時。棚のラジオが突然鳴り始めた。
「電源を入れた覚えはなかったし、電池も入っていないと思っていました。それなのに、音楽と男性アナウンサーの声が、はっきり聞こえた」
流れていた番組の内容
Wさんが聞いた内容は、深夜のラジオ番組のオープニング。男性アナウンサーが、番組名と日付(『○月○日、土曜日の深夜』)を読み上げた後、軽快な音楽が流れた。
「番組名で検索したら、1985年に終了した深夜番組でした。当時の番組のオープニングと、内容が完全に一致していました」
翌年も、同じ日の同じ時刻
翌年の夏、Wさんは前年と同じ7月の日付、深夜2時頃に、ラジオの近くで起きていた。
結果、ラジオが鳴り始めた。同じ番組のオープニング、同じアナウンサーの声、同じ音楽。
「タイムスタンプを取って、1年前の録音と比較したら、完全に同じものでした」
電池を抜いても鳴った年
翌々年、Wさんはあえて、ラジオの電池を全部抜いてから就寝した。
結果、深夜2時頃、電池が無いはずのラジオから、また同じ番組が流れた。
「これは説明がつきません。電源無しでラジオが鳴ること自体、技術的に不可能なはずです」
ラジオは触らずに残してある
Wさんは、それ以降、ラジオには触らないようにしている。撮影も、録音も、ラジオの分解も、しない。
「山小屋の他の利用者に話したことは、一度もありません。私が独占的に使っている期間の出来事なので、他の人の前で起きるかどうかも、分からない」
今年の夏も、同じ日に同じ放送
今年の夏も、Wさんは山小屋に滞在中。例年通り、7月のその日の深夜2時頃に、ラジオから同じ番組が流れた。
「20年以上通って、ラジオが鳴り始めたのは、最初の数年ではなく、ある時期から急にでした。なぜそのタイミングだったのかは、分かりません」
追加で聞いた話
取材のあと、Wさんが、山小屋を所有している登山関係の団体に、ラジオの由来を聞いてくれた。
「『あのラジオは、1986年の夏に小屋に置かれたものらしい。当時の利用者の遺品のひとつ』と聞きました。前年、つまり1985年に、山小屋で長期滞在中の登山者が体調を崩して亡くなった、と」
その方は深夜に音楽を聴く習慣があって、山小屋の他の利用者からは『電池を切らさずにラジオを聞いている人』として記憶されていた、と。
「ご家族が遺品整理の時に、ラジオだけを山小屋に置いていった、という経緯らしいです。『ここで聞くのが好きだったから、ここに残してあげたい』というお気持ちで、と」
Wさんがラジオが鳴り始めた時期と、自分の山小屋滞在の頻度を照合したところ、20年通ううちのある時期から自分が長期独占的に使うようになった時期と、ラジオが鳴り始めた時期がほぼ一致していた。
「『他に誰も使わなくなった夏、ラジオが鳴り始めた』という関係なのかもしれません。だとすると、私が誰にも話していない、というのは、結果として何か理にかなっているのかもしれないです」