集落の秋祭り、参道で振り返ってはいけない夜の話
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Sさん(仮名・43歳男性・島根県の町役場勤務)から届いた話。生まれ育った集落の秋祭りで、子どもの頃から『参道では絶対に振り返るな』と繰り返し言われていた、その言い伝えの起源を、地元の郷土史家に確認した経緯。
生まれた集落、人口200人弱
Sさんは島根県内の山間集落で生まれ育った。集落の人口は200人弱、平均年齢は60代。
集落の中心には、200年以上前から続く神社。年に一度、10月の第二日曜日に秋祭りが行われる。
祭りの夜、参道を歩くルール
秋祭りの夜、神社の参道を歩く時、集落の人には決まったルールがある。
「絶対に、後ろを振り返らない。たとえ後ろから声をかけられても、足を止めない。前だけ見て歩く」
Sさんは、子どもの頃から、祖父母にも、近所の大人にも、繰り返し言われていた。なぜそうするのかは、誰も説明しなかった。
『そういうもの』として育った
集落の子どもたちは、秋祭りの夜、参道を歩く時は前だけを見て歩く。理由は知らない。ただ、そういうものとして育つ。
「私も、子どもの頃から大人になった今まで、一度も振り返ったことはありません。なぜか聞こうと思ったこともなかったです」
数年前、地元の郷土史家を訪ねた
Sさんが40歳を過ぎて、集落の歴史をまとめるプロジェクトに役場として関わることになった。集落の郷土史を編纂している、80代の郷土史家を訪ねた。
会話の中で、Sさんは思い出したように『振り返るなのルール』について聞いてみた。
郷土史家の説明、明治の事故
郷土史家の説明は、こうだった。
「明治の中頃、秋祭りの夜に、参道で死亡事故があったらしい。詳細は記録に残っていないが、口伝で『振り返って転んで亡くなった』と。集落の年寄りは、それ以来、子どもや若い者に『振り返るな』と言い続けるようになった、と聞いている」
郷土史家自身も、その話は、自分の祖父から聞いた、と言った。
ただ、ルールは『振り返らない』だけ
明治の事故が起源、というのは納得できた。ただ、Sさんが疑問に思ったのは、ルールが『振り返るな』に限定されていることだった。
「事故防止なら、『参道を走らない』とか『参道を急がない』のほうが、直接的な防止策のはずなんです。『振り返るな』だけが、特異な形で残っている」
郷土史家は、Sさんのその指摘に、しばらく黙った後、こう言った。「それは、私にも分からない」
今年の秋祭りも、振り返らずに歩いた
Sさんは、今年の秋祭りも、子どもの頃と同じように、参道を前だけ見て歩いた。
「明治の事故が起源、と分かった後でも、振り返るのは、なんとなく、嫌でした。理由は、自分でもわかりません」
集落の子どもたちも、今年の秋祭りで、大人と同じように、前だけ見て参道を歩いていた。理由を知らないまま、そういうものとして。