屋島スカイウェイのミステリーゾーン、車を降りてはいけない話
Kさん(仮名・28歳男性・岡山県在住の会社員)から届いた話。出身は香川県高松市で、帰省のたびに地元の友人と屋島へ夜のドライブに行く。その途中にある「ミステリーゾーン」で、去年の冬に体験した話。
帰省のたびの夜ドライブ
Kさんは大学進学で岡山に出て、そのまま就職した。年に数回、高松の実家に帰る。
帰省した夜は、高校時代からの友人と屋島に上るのが恒例になっている。山上の展望台から見える高松の夜景が目当てで、車で20分ほどの手軽なコース。
屋島に上る道は、屋島スカイウェイという観光道路。昔は屋島ドライブウェイという有料道路だったが、いまは無料で通れる。
看板の立つ「ミステリーゾーン」
この道の途中に、「ミステリーゾーン」と書かれた看板の立つ区間がある。
目の錯覚で坂の向きが逆に見える場所で、下っているように見えるのに、ニュートラルに入れた車は見た目と逆の方へゆっくり動き出す。
観光案内にも載っている公認のスポットで、昼間は試しに徐行する車が何台もいる。Kさんたちも高校の頃から、免許を取った先輩の車で何度も試した。
ここまでは、ただの観光の話。
高校の頃から言われていた噂
Kさんの高校では、ミステリーゾーンについてもうひとつ、観光案内には載っていない言い方があった。
「ゾーンで停まるのはいい。降りるな」
誰が言い出したのかは分からない。先輩から後輩へ、なんとなく引き継がれていく類の話。
理由を聞いても、誰も知らなかった。ただ、夜にゾーンで車を降りた先輩が「もう夜は行かない」とだけ言った、という話が残っていた。
去年の冬の夜
去年の12月、Kさんは帰省して、いつもの友人と夜の屋島に上った。深夜1時すぎ。前にも後ろにも車はいなかった。
ミステリーゾーンの看板の手前で、友人が「久しぶりにやってみよう」と言った。
ゾーンの真ん中あたりで停めて、ニュートラル。車は見た目の坂とは逆に、ゆっくり動き始めた。高校の頃と同じ。二人で笑っていた。
友人が「外から見たらどう見えるんだろう」と言って、助手席のドアを開けた。
Kさんは運転席に残って、ブレーキを踏んだまま待っていた。友人はスマホのライトをつけて、車の後ろへ回った。
ミラー越しに見ていると、友人がライトを消して、立ち止まった。
そのまま、車の後方をじっと見ている。
30秒ほどして、友人は早足で戻ってきた。シートに座ってドアを閉めて、「出して」とだけ言った。
友人が見たもの
山を下りてコンビニの駐車場に入るまで、友人はほとんど喋らなかった。
温かい缶コーヒーを二本買って戻ったら、ようやく口を開いた。
「後ろ、誰か歩いてなかった」
Kさんはミラーを見ていたが、誰もいなかった。そう伝えると、友人は首を振った。
「坂の下から、人が歩いて上がってきてた。最初は観光の人かと思った。でも、ライトを消して見てたら、あれ、車と同じ速さだった」
停まっているように見えて、ゆっくり動いていたKさんの車。その車と同じ速度で、坂の下の人影は距離を保ったまま付いてきていた、という。
「歩く速さじゃなかった、あれは。だから、目が合う前に戻った」
噂の続き
年が明けて、Kさんは別の地元の友人にこの話をした。地元に残って消防団に入っている同級生。
彼は笑わずに、こう言った。
「降りるなって言われてるのは、それのことだよ。続きがあって。『下から歩いてくる人と、目を合わせるな』。うちの母親も知ってた」
Kさんはその続きを、高校時代には聞いたことがなかった。
先輩たちが省略して伝えていたのか、家庭によって伝わり方が違うのか。それも分からない。
追加で聞いた話
取材のあと、Kさんが地元のタクシー運転手をしている親戚に聞いてくれた。
「夜のスカイウェイでミステリーゾーンに停まりたがる客は、たまにいる。昼はいいけど、夜は適当な理由をつけて流すのが暗黙の了解になってる、と言っていました。理由を聞いても、『夜はやめておけ』としか言わなかったですね」
Kさんはいまも帰省のたびに屋島へ上る。夜景は変わらず見に行く。
ただ、ミステリーゾーンでは、もう停まらない。