実家の固定電話、毎週金曜の同じ時刻に残っていた着信履歴の話

約4分
実家の固定電話、毎週金曜の同じ時刻に残っていた着信履歴の話
目次
  1. 毎週金曜、同じ時刻の着信
  2. 「出なくていい」
  3. 母の手帳
  4. 番号を調べた
  5. 祖父が亡くなった日のこと
  6. 母が毎週していたこと
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Mさん(仮名・36歳女性・関東在住の医療事務)から届いた話。北陸の実家で母と二人で暮らしていた頃から続いていた、固定電話の着信履歴の話。意味が分かったのは、母が亡くなったあとだった。

毎週金曜、同じ時刻の着信

Mさんの実家は北陸の住宅地にある。父は早くに亡くなり、長く母と二人暮らしだった。

玄関脇の棚に置かれた、液晶画面つきの古い電話機。高校生の頃、Mさんはその着信履歴に気付いた。
毎週金曜の18時すぎ。同じ番号からの不在着信が、必ず1件残っている。

時刻は18時4分のときもあれば、18時11分のときもあった。ただ、金曜だけは外れない。
電話が鳴っているところは、何度か見た。母は台所にいても、その音には出ない。鳴り終わるまで、手を止めることもなかった。

履歴は翌週には新しい1件に置き換わる。それが何年も続いていた。

「出なくていい」

一度、鳴っている最中に受話器へ手を伸ばしたことがある。
母に止められた。強い言い方ではなく、ただ一言。

「それは出なくていい」

誰なの、と聞いても、母は「古い知り合い」としか答えなかった。
営業電話か、関わりたくない相手なんだろう。当時のMさんはそう解釈して、それ以上は聞かなかった。

大学進学で実家を出てからは、履歴のことは忘れていた。

母の手帳

母が亡くなったのは、おととしの秋。
四十九日が済んで、Mさんは実家の遺品整理を始めた。

台所の引き出しから、母の手帳が出てきた。年金の予定や通院日が書いてある、ごく普通の手帳。

めくっていて、気付いた。
毎週金曜の欄に、小さな丸印がついている。それだけ。文字はない。

押し入れには、使い終わった古い手帳が輪ゴムでまとめて取ってあった。
何冊か開いてみると、どの年も同じだった。全部の金曜に、同じ印。

一箇所だけ、印の代わりに斜線が引かれている金曜があった。日付を確かめると、その週は母が入院していた時期と重なる。
家にいなかった週だけ、印がない。

Mさんはそこで、固定電話の履歴を思い出した。

番号を調べた

実家の固定電話は、まだ生きていた。履歴を開くと、最後の着信は母が亡くなる前の週の金曜。いつもの番号。

母の死後は、一件も入っていなかった。

Mさんはその番号を控えて、市外局番から調べた。隣の県の、海沿いの市の局番だった。
その市には、母の父、つまりMさんの祖父が昔勤めていた会社があった。

会社の名前で検索すると、20年以上前に廃業したことが分かった。番号の持ち主が今は誰なのかは、調べてもたどり着けなかった。

祖父が亡くなった日のこと

祖父はMさんが生まれる前に亡くなっている。
仏壇の過去帳を開くと、命日の欄にこうあった。

金曜日。

母の姉にあたる伯母に電話で聞くと、祖父は勤め先で倒れて、そのまま亡くなったのだと教えてくれた。夕方、仕事を終える頃だったという。

「お父さんはね、几帳面な人だった」と伯母は言った。Mさんが着信履歴の話をすると、伯母は少し黙ってから、こう続けた。

「お父さん、毎週金曜の夕方に、家に電話する人だったの。今週も終わった、いまから帰る、って。お母さんたち、それを聞いてから夕飯の支度をしてた」

母が毎週していたこと

毎週金曜の18時すぎに鳴る電話。
出ない母。翌週も残る履歴。手帳の丸印。

母は、出なかったのではなくて、鳴るのを確かめていたのだと思う。
鳴れば、印をつける。それを何年も続けていた。

誰が、何のために掛けていたのかは、いまも分からない。
廃業した会社の番号が、どこにつながっていたのかも。

ただ、母が亡くなった週から、その電話は一度も鳴っていない。

実家はもう処分したが、Mさんは固定電話の解約手続きの日、最後にもう一度だけ履歴を開いた。
新しい着信は、入っていなかった。

こっちにも、もうひとつ

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