中学校の「四階の開かずの教室」の噂と、校舎の設計図
Sさん(仮名・36歳男性・関西の市役所勤務)からメールで届いた話。メールで6往復ほど追加取材させてもらった。仮名と校名を伏せる条件で承諾をいただいている。
母校の中学校の噂です。
僕らの代では、知らない人がいないくらい有名でした。四階に開かずの教室がある、というものです。
内容はよくある形でした。
四階の一番奥に鍵のかかった教室があって、中には机が並んだままになっている。昔そこで何かがあったから閉めた。近づくと先生に怒られる。
誰から聞いたかは覚えてません。
入学したときにはもう知っていました。上級生から聞いたのか、同学年で広まったのか、そこは思い出せないです。
去年、同窓会の幹事をやりました。
会場の下見のついでに、母校に連絡を取って、校舎を見せてもらうことになったんです。卒業して二十年以上経ってました。
行ってみて、気づきました。
校舎が三階建てだったんです。
建て替えたのかと思いました。
先生に聞いたら、この校舎は昭和四十年代からのもので、建て替えはしていない、と言われました。増築もありません。
その場では納得できませんでした。
僕は三年間通ってます。四階の噂も知っていて、四階のことを何度も話題にしてる。それなのに、校舎は最初から三階建てだった。
同級生に連絡しました。
同窓会の名簿があったので、連絡のついた人に順番に聞きました。四階の開かずの教室の噂を覚えているか、と。
十七人に聞いて、全員が覚えてました。
内容もほぼ同じです。四階の一番奥、鍵がかかっている、机が並んだまま。細部まで揃っていました。
四階に行ったことがあるか、も聞きました。
誰も行っていません。階段が三階で終わっていた、と言う人もいました。それでも噂は四階の話として覚えている。
ここまでは、よくある話だと思います。
噂というのは、実物が無くても広まります。四階という言葉のほうが響きがいいから、三階の話が四階になった。そういうことは起きると思うんです。
ただ、仕事柄、資料を調べる癖がありまして。
市の文書館に、公共施設の設計図が保管されてるんです。学校の校舎も対象でした。閲覧の申請をして、母校の分を出してもらいました。
青焼きの図面が何枚かありました。
建築時のものです。日付は昭和四十年代の前半でした。
その中に、四階の平面図がありました。
普通教室が並んでいて、一番奥に一室あります。用途の記載は特別教室でした。
職員の方に確認しました。
この図面は当初の計画案で、四階は着工されていない、という説明でした。予算の関係で三階までに変更された、と。変更の経緯を示す文書も一緒に綴じてありました。
つまり、四階は建っていません。
図面の上にだけあった、ということになります。
それで一応の説明はつく。
ただ、腑に落ちてないところがあるんです。この図面は文書館にあって、閲覧には申請が要ります。中学生が見られるものではありません。
僕らは四階を具体的に語ってました。
一番奥、という部分。噂では奥の教室ということになっていて、図面でも一番奥に一室あります。偶然だと思います。ただ、そこが引っかかっています。
先生に伝わっていた可能性はあります。
建設当時を知る職員が、四階の話をしたのかもしれない。それが生徒に伝わって、噂の形になった。一番あり得ると思います。
ただ、そこは調べきれてません。
当時の職員の方には行き当たっていません。校内に記録も残っていませんでした。
同窓会では、この話はしませんでした。
みんな四階の話を覚えていて、盛り上がると思うんです。でも、四階は無かったと言うと、たぶん話がそこで終わってしまうので。
図面のコピーは持っています。