旧仲哀トンネル、振り返るなと言われる話

約6分
旧仲哀トンネル、振り返るなと言われる話
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Gさん(仮名・39歳男性・福岡県内で土木関係の自営業)から届いた話。本人から直接連絡をもらった話。電話で1回、約45分。場所は福岡県京都郡みやこ町と田川郡香春町をつなぐ峠の旧道沿いに残る、小さな祠。旧仲哀トンネル(明治23年完成)の周辺は連続殺人事件やバス転落事故の噂で知られているが、Gさんが地元で聞いて育ったのは、それとは別系統の話だという。場所と噂はそのまま掲載することになった。同級生の名前と中学校名は本人希望で伏せ字。本筋はそのまま。

これは俺の地元で、昔から言われてる話なんですけど。

俺は福岡の東のほう、京都郡というところで生まれ育った。いまは仕事で北九州市内に住んでる。

実家は町境に近い集落で、家の裏から細い道を上っていくと、隣の田川郡香春町に抜ける峠の旧道に出る。

その峠に、明治23年にできた古いトンネルがある。「旧仲哀トンネル」。

連続殺人事件があったとか、バスが落ちたとか、ネットで調べると物騒な話がたくさん出てくる。九州ではそこそこ有名な心霊スポットだ。

ただ、これから書くのは、そのトンネルの中の話じゃない。

トンネルじゃなくて、旧道をさらに5分くらい上ったところに、小さい祠がある。

屋根の苔はぼろぼろ。中の石も、何の石なのか分からないくらい黒くなってる。

誰が祀ってるのかも、はっきりしない。

地元の人間は子供の頃から、その祠を過ぎたあとは絶対に振り返るな、と親に言われて育つ。

理由は誰もちゃんと説明してくれない。

とにかく振り返るな、というだけ。それで通ってきた土地だ。

旧仲哀トンネルの「殺人」とか「バス事故」の噂とは、違う系統の話だと思う。

祠の方の話は、ネットで調べても出てこない。地元の人間以外には、たぶん知られてない。

俺がこの話を1番きちんと聞いたのは、中学2年のとき。

同級生のT(仮名)が、自分の2つ上の兄ちゃんの体験を話してくれた。

Tの兄ちゃんは当時高校1年。学校帰りに友達と肝試しのつもりで旧道に入って、祠の前まで行ったらしい。

日が落ちる少し前。まだ完全に暗くはなってなかったそうだ。

祠を過ぎて10メートルくらい歩いたところで、後ろから、小さい子供の声で名前を呼ばれた。兄ちゃんはそう言ってたそうだ。

低学年くらいの男の子の声で、はっきり兄ちゃんのフルネームを呼んだ、と。

一緒にいた友達には聞こえてない。

兄ちゃんはとっさに振り返ろうとした。けど、隣の友達が腕をつかんで、振り返るな、絶対に振り返るな、と言って、2人で峠を抜けるまで走ったそうだ。

家に帰った晩、兄ちゃんは39度近い熱を出して、3日寝込んだと聞いた。

病院では風邪としか言われなかったそうだ。

Tが言うには、兄ちゃんはそれ以来、旧道には絶対に近づかない。

社会人になって福岡市内に出たあとも、帰省で実家に戻った時に、家の裏の道の方を見ようとしないらしい。

その話を聞いてから、俺もTも、旧道に近づくのはやめた。

中学のうちは、その手の話が同級生の間でちょくちょく回ってた。

誰々の親戚が祠の前で写真を撮ったら1週間体調を崩したとか、登山サークルの大学生が振り返って山の中で迷ったとか。出所のはっきりしない話がいくつもあった。

確かめようがない。半信半疑のまま、振り返るな、というルールだけが共通認識として残ってきた感じだ。

俺自身は、あの祠を過ぎたあとに何かが起きたことはない。

中学を出てからは旧道を通る用事もなくなった。

だから自分の話としては、何もない。

ただ、去年の夏、地元で同窓会があったときに、また話が出た。

集まったのは中学の時のクラスの8人くらい。町に残ってる奴も、北九州や福岡市に出た奴もいた。

酒が入って、誰が言い出したのか、あの祠の話になった。

その場で、2人がぽつぽつ自分の話をし始めた。

1人はずっと地元に残ってみやこ町の役場に勤めてる奴。消防団の夜警で旧道の入り口あたりまで車で行ったとき、ヘッドライトに白いものが横切ったと言ってた。

子供くらいの背丈で、すぐ消えたそうだ。

同乗してた先輩の団員は、何も言わずにそのまま引き返したらしい。

先輩は地元の人で、たぶん知ってたんだと思う。その奴はそう言ってた。

もう1人は、俺と同じで福岡市に出た同級生。結婚して子供が生まれたあと、家族で帰省したときに親父さんと旧道の入り口を通ったら、子供がぐずって動かなくなった、と話してた。

普段はそんなことのない子。その日だけ、入り口の手前で泣き出して進めなかったそうだ。

親父さんは黙って車のほうに引き返した、と。

家に着いてから、あの道は通らなくていい、と1言だけ言ったらしい。

同窓会の場では、結局、何が祀られてるのか、何の声なのか、誰の名前を呼んでくるのか、誰も分かっていなかった。

地元の年寄りに聞いても、振り返るな、ということしか言わないそうだ。

お祭りやお参りの対象でもない。ただ、過ぎたあとに振り返らない、というルールだけが、何代も前から残ってる感じだ。

ネットで「旧仲哀トンネル」を検索すると、心霊スポットとして連続殺人事件やバス転落事故の話はたくさん出てくる。

ただ、祠の話と「振り返るな」のルールは、どのページにも書かれてない。

京都郡みやこ町と田川郡香春町の境目の、旧道の途中の祠。

観光地でもなく、心霊スポットとして紹介されてるわけでもない。地元の人間以外には、たぶん知られてない。

俺はこの話を、自分の体験として持っているわけじゃない。

Tの兄ちゃんの話、同窓会で聞いた2人の話、子供の頃に親に言われたルール。その積み重ねでしかない。

ただ、何人もが似たような輪郭の話をして、そのたびに、振り返るな、という同じ結論に行き着く。そこだけが、地元では共有されてる。

実家にはいまも年に1、2回帰ってる。

家の裏の道の方は、なんとなく、見ないようにしてる。

見ないようにしてる、というよりは、子供の頃からそういう向き合い方で育っただけ。いまさら向き直る理由がないのかもしれない。

こっちにも、もうひとつ

看護学校で先輩から聞いてた話

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