封鎖された旧トンネルの斜面で白い影が揺れ、帰りの車の屋根を何かが歩いた話
Tさん(仮名・30歳男性・会社員)から、サイトの投稿フォーム経由で届いた話。当時は大学生だったという。仮名にして、いくつかの細かい部分はぼかす条件で承諾をもらった。
これは自分が大学三年のとき、夏休みに友達と肝試しに行った話です。今から十年くらい前になります。
自分は埼玉の出身。当時は実家から大学に通っていた。
夏休みに入って、サークルの飲みの帰りに、誰かが心霊スポットの話を始めたんです。
そこで名前が出たのが、飯能のほうにある畑トンネルでした。
地元では、わりと知られた場所。古いトンネルで、今は使われていない旧道のほうが封鎖されている、という話でした。
言い出したのは、同じサークルのKという友達です。車を持っていたのがKだけだったので、自然とKの車で行くことになりました。
メンバーは自分とK、それからもう一人、Mという友達の三人。全員、男です。
出たのは、たしか深夜の十二時を過ぎたあたり。コンビニで飲み物を買って、Kの車で飯能の山のほうに向かいました。
自分はそういうのを、半分くらいしか信じていませんでした。ただ、夜中に車で走るのが、単純に楽しかった。
街灯がだんだん減っていって、道が細くなる。カーナビを頼りに、山道を登っていく。
目的の場所に着いたのは、一時くらいだったと思います。
今使われている新しいトンネルの、少し脇に、旧道の入り口がありました。
そっちは車で入れないように、ガードレールみたいなもので塞がれている。自分たちは車を路肩に止めて、歩いて近づきました。
封鎖された旧トンネルの入り口は、思っていたより小さかった。
中は真っ暗で、何も見えません。三人とも、スマホのライトと、Kが持ってきた懐中電灯を持っていました。
トンネルの入り口の前で、しばらく写真を撮ったり、わざと大きい声を出したり。
最初に気づいたのは、Mでした。
あれ、上に何かいる、と小さい声で言ったんです。
トンネルの入り口の上は、コンクリートの壁になっていて、その上が、木の生えた斜面。
Mが指さすほうを見たら、その斜面の途中に、白いものがありました。
人の形、というほどはっきりしていません。ただ、白い、細長いものが、そこにある。
それが、ゆらゆら、揺れていました。
風はほとんどなかったと思います。木の葉も、そんなに動いていない。
その白いものだけが、ゆっくり、左右に揺れている。
自分は、洗濯物か、ビニールか何かが引っかかっているんだろう、と思いました。こんな山の中に洗濯物もないんですけど、そう思いたかったんだと思います。
Kが、懐中電灯をそっちに向ける。
光が斜面を照らした瞬間、その白いものは、消えていました。
消えた、というか、光の中には、何もなかった。ただの木と、土と、枯れ草。
Kが、ライトをゆっくり左右に動かしても、それらしいものは、どこにもありません。
三人とも、しばらく黙っていました。
Mが、もう帰ろう、と言って、自分もKも、それに従いました。誰も、もう一回見てみよう、とは言わなかった。
車に戻って、すぐにエンジンをかけて、Kがその場でUターンしました。
来た道を、下っていく。
おかしなことに気づいたのは、トンネルから少し走った、山道の途中でした。
車の屋根の上で、音がしていたんです。
こつ、こつ、こつ、と、何かが歩いているような音。
最初は、木の枝でも擦れているのかと思いました。でも、もう周りに、木は覆いかぶさっていない。
音は、屋根の上を、前から後ろへ、ゆっくり移動していました。
後部座席に座っていたMが、上を見上げて、固まっている。
Kは、何も言わずに、アクセルを踏みました。スピードを上げても、その音は、ついてきます。
こつ、こつ、と、屋根の上を歩く音だけが、車の中に響いていました。
その音が消えたのは、山を下りきって、街灯のある道に出たあたり。
いつの間にか、聞こえなくなっていました。どこで止んだのかは、はっきりしません。
コンビニの明るい駐車場に車を止めて、三人で車の屋根を確認しました。
何も、ありません。枝も、足跡らしいものも、何も。
あの白いものが何だったのか、屋根の音が何だったのか、自分には今も分かりません。
あそこに何が出る、という話も、後で少し調べようとしました。ただ、はっきりしたことは出てこない。色々言われているだけで、自分には確かめようがない。
それ以来、その三人で、肝試しには行っていません。
畑トンネルにも、二度と行っていないです。