入口のお地蔵さんに手を合わせず化けトンネルを車で抜けたら、後部座席に赤い前掛けの切れ端が落ちていた話
Kさん(仮名・22歳男性)から、サイトのお問い合わせフォーム経由で届いた話。大学生だった当時の体験で、いまも香川に住んでいるらしい。仮名で、細かい時期はぼかしてほしいとのことだった。
自分が大学二年のときの話です。
夏休みで、地元の友達と二人で、夜に車でぶらぶらしてました。運転は自分。助手席に、高校からの友達。
特に行くあてもなくて、コンビニでアイスを買って、適当に山のほうに向かってました。
その友達が、近くに有名なトンネルがあるって言い出したんです。香川の、地元では化けトンネルって呼ばれてるところ。
中村トンネル、というのが正式な名前らしい。あとから調べたら、立石隧道とも書くみたいでした。
自分は、心霊とかはあんまり信じてないほう。ただ、暇だったし、まあ行ってみるかという軽い感じでした。
着いたのが、たぶん夜の十一時過ぎくらい。街灯もほとんどなくて、トンネルの入口だけが、ライトに浮かんで見えました。
古いトンネルでした。コンクリートが黒ずんでて、上のほうに名前のプレートがついてる。幅は、車一台がやっと通れるくらい。
入口のところに、お地蔵さんがありました。
小さな祠みたいなのがあって、その中に石のお地蔵さんが立ってる。赤い前掛けをしてました。色は、けっこう褪せてた気がします。
友達が、ここ、手を合わせてから通らないとダメらしいで、って言いました。地元で、そういうふうに言われてるみたいで。
自分は、正直めんどくさかった。車から降りるのも嫌だったし、なんで肝試しに来てわざわざお参りするんだ、と思って。
いいや、そのまま行こ、って自分が言って、ブレーキを離した。
友達は、ええ、ほんまに行くん、みたいな感じで、ちょっと笑ってました。
トンネルに入ると、思ったより長かった。中はまっ暗で、ヘッドライトの先しか見えない。壁が湿ってて、ライトに照らされると、黒く光ってました。
そのとき、ラジオをつけてたんです。普通のFMで、深夜の音楽番組。
トンネルの真ん中あたりで、ラジオが、ザッてノイズになりました。
トンネルの中だから電波が悪いんだろうな、と思いました。よくあることなんで、自分は気にしてなかった。
ただ、ノイズの奥から、別の音が聞こえてきた。
低い、男の人の声みたいな。お経というか、念仏みたいな感じでした。ぼそぼそ、同じ調子で、何かを唱えてる。
はっきり聞こえるわけじゃないんです。ノイズに混ざって、その下のほうで、ずっと低く続いてる感じ。
友達が、おい、これ何の音、って小さい声で言いました。自分も、わからん、としか言えなかった。
チャンネルを変えようとしたんですけど、その間も、声だけはずっと同じ調子で続いてる。
自分は怖くなって、アクセルを踏みました。早く出たくて。
出口の明かりが見えて、トンネルを抜けた瞬間に、ラジオが、ぱっといつもの音楽に戻った。
二人とも、しばらく無言。気のせいやろ、電波やろ、って友達が言って、自分もそうやな、って返しました。
そのまま家まで送って、その日は別れた。
おかしいなと思ったのは、次の日です。
昼に車を掃除しようとして、後ろのドアを開けたら、後部座席に、布きれが落ちてました。
赤い布。端っこがほつれてて、ちぎれたみたいな感じの、細長い切れ端。
最初は、自分のか友達のタオルか何かが切れたのかと思いました。でも、こんな赤い布、車に積んでた覚えがないんです。
友達にも、後で聞きました。知らん、自分のとちゃう、って言われた。後ろに乗ってたのは友達だけ。
色とか、布の感じが、あのお地蔵さんの前掛けに、似てる気がしました。
もちろん、たまたま似てるだけかもしれません。どこかで紛れ込んだのかもしれないし。
しばらく手に取れなくて、結局ティッシュ越しにつまんで、ゴミに出しました。捨てたあと、自分はちゃんと手を合わせたかな、と一瞬だけ思った。
あのラジオの声が何だったのかは、いまもわからない。電波の混信だったのかもしれない。
ただ、あのトンネルには、それから一度も行ってないです。地元の友達に誘われても、あそこだけは、なんとなく行く気になれなくて。