京都の清滝トンネルを彼の車で抜けたら、後部座席に俯いた女が座っていた話
Mさん(仮名・28歳女性・会社員)から、サイトの問い合わせフォームを通じて届いた話。仮名にしてほしい、住んでいる方面もぼかしてほしい、というのが本人からの希望でした。
私が体験したのは、去年の秋のこと。
当時つき合っていた彼が、車を買ったばかりで、よくドライブに連れて行ってくれました。
その日は、夜から出かけることになりました。彼が「ちょっと肝試しっぽいとこ行ってみる?」と言い出して。
行き先が清滝のトンネルだと聞いて、私は正直、あまり気乗りしなかった。
心霊スポットとして名前が出る場所だというのは、なんとなく知っていたからです。
それでも、彼が運転してくれるなら、と思って、ついて行くことにしました。
清滝に着いたのは、夜の11時を回ったころ。
あのトンネルは、とにかく狭い。車一台が、やっと通れるくらいの幅しかありません。
一方通行なので、信号が青になるのを待ってから、入っていきました。
中は、思っていたより暗かった。オレンジ色の電灯が、ぽつぽつと点いているだけ。
天井が低くて、壁も近い。息が詰まるような感じがしました。
彼は「うわ、ほんと狭いな」と言いながら、ゆっくり車を進めていた。
私は、なんとなく落ち着かなくて、シートに浅く座っていました。
トンネルの、ちょうど真ん中あたりに来たとき。
なんの気なしに、バックミラーに目をやりました。
後ろの座席に、女の人が座っていた。
うつむいて、長い髪が顔にかかっていて、表情は見えない。濡れた髪が、頬に貼りついているようでした。
後部座席には、誰も乗っていないはず。出発する前、荷物を置くのに彼が後ろのドアを開けていたのを、私は見ています。
声が出ませんでした。隣の彼に知らせることも、できない。
ミラーから目をそらすのが、怖かった。ただ、その人を見ていました。
女の人は、ずっとうつむいたまま。指一本、動かない。
車は、ゆっくりと、出口に近づいていく。
トンネルを抜けて、外の空気に出た瞬間でした。
もう一度ミラーを見たら、後ろの座席には、誰もいない。
私は、やっと息を吐きました。彼に「ごめん、今すぐ帰りたい」と言って。
彼は、私の様子がおかしいのに気づいて、何も聞かずに車を出してくれた。
家の近くまで戻って、彼が車を停めたときのことです。
後ろのドアを開けて、荷物を取ろうとした彼が、手を止めました。
後部座席の、座面のところだけが、ぐっしょりと濡れていた。
水をこぼしたみたいに、座っていたあたりだけ、はっきりと色が変わっています。
彼は飲み物なんて持ち込んでいなかったし、その日は雨も降っていませんでした。
私たちは、しばらく、何も言えなかった。
結局、あのとき後ろに座っていたのが何だったのか、私には分かりません。
彼とはその後、別の理由で別れてしまって、今は連絡も取っていない。
あのトンネルには、それきり、一度も行っていません。