旧吹上トンネルを自転車で抜けようとしたら、後ろから同じ距離で走って追ってくる足音がした話
Tさん(仮名・29歳男性)から、サイトのフォーム経由で届いた話。高校生の頃の体験で、場所は東京・青梅の旧吹上トンネル。仮名で、細かい時期はぼかしてほしいとのことだった。
自分が通っていた高校は、家から自転車で30分くらいのところにありました。
バス通学の子も多かったけど、自分は朝が弱くて、ぎりぎりまで寝ていたかった。だから自転車。バスの時間に縛られないのが、楽でした。
通学路は二通りありました。広い県道沿いを大回りするルートと、山のほうを抜ける旧道のルート。
旧道のほうが、距離としては短いんです。少し坂はきついけど、十分くらい早く着く。
その旧道の途中に、古いトンネルがありました。今になって調べると、わりと有名な場所らしい。当時の自分は、ただの近道としか思っていませんでした。
トンネル自体は、そんなに長くありません。自転車だと、二、三十秒で抜けられるくらい。
中は、昼でも薄暗かった。電灯はあったけど、半分くらいは切れていて、ついていない。壁が湿っていて、夏でもひんやりしていた。
一年生の頃から、ふつうに通っていました。気味が悪いとは思っても、毎日のことだし、慣れる。
おかしくなったのは、二年の、たしか梅雨の時期でした。
その日は、朝練で、いつもより早く家を出ていました。六時前くらい。外はまだ薄暗くて、トンネルの中は、ほとんど真っ暗。
ライトをつけて、いつものように入りました。
半分くらい来たときです。後ろから、足音が聞こえました。
走っている足音。誰かが、自分を追いかけて走ってくる、みたいな。靴の底が地面を叩く音が、はっきり聞こえる。
最初は、同じ高校の誰かが、自転車を押して走ってるのかと思いました。それか、ジョギングしてる近所の人か。
でも、振り返るのが、なぜか怖かった。だから、見ませんでした。
自分は、少しペダルを速くしました。
そうしたら、足音も速くなった。距離が、変わらないんです。自分のすぐ後ろ、二、三メートルくらいのところを、ずっと同じ間隔でついてくる。
自転車のスピードに、人が走って、ずっとついてこられるわけがない。頭ではそう思うのに、足音は、確かに同じ距離にいました。
自分は、思いきり漕ぎました。立ちこぎで、全力で。心臓の音と、自分の息が、うるさいくらいでした。
それでも、足音は離れない。速くした分だけ、向こうも速くなる。荒い息とかは、聞こえないんです。ただ、足が地面を叩く音だけが、ぴったりとついてくる。
出口の、丸い明かりが見えました。あそこまで行けば、と思って、もう、振り返ることも忘れて漕ぎました。
トンネルを出た、その瞬間でした。
足音が、ぴたりと止んだ。
明るい外に出て、自転車を止めて、はじめて振り返りました。トンネルの中には、誰もいない。入口まで、ずっと見通せるのに、人影ひとつなかった。
自分は、しばらくその場で、息を整えていた。汗が、すごかった。
その日からしばらく、自分は遠回りの県道ルートで通いました。
何回か、また旧道を通ろうとしたこともあります。でも、トンネルの入口まで来ると、足が止まる。あの足音を、また聞く気がして、入れませんでした。
結局、卒業まで、旧道はほとんど使いませんでした。
今でも、よく分からないんです。誰かのいたずらだったのか、自分の聞き間違いだったのか。
ただ、あの足音が、自分のスピードにきっちり合わせてきたことだけは、どうしても説明がつかない。
あれから、あのトンネルには、一度も行っていません。