山中の旧トンネルで頭上から足音がして、外に出たら車の屋根に濡れた足跡があった話
Tさん(仮名・33歳男性・建設関係の会社員)から、サイトの投稿フォームで届いた話。大学生だった頃の体験だという。仮名にすること、場所はぼかすことを条件に承諾をもらった。
自分は今、関東のほうで働いています。でも話自体は、地元にいた大学生のときのものです。もう十二、三年前。
地元には、夜に行く場所、みたいなのがいくつかありました。その中のひとつが、山のなかの古いトンネルでした。
今はもう新しい道ができていて、そっちは使われていません。車一台がやっと通れるくらいの幅で、照明もない。
出る、というのは、地元では昔から言われていました。なんでそう言われ出したのかは、自分は知りません。調べたこともないです。
夏休みでした。大学の友達三人と、自分の四人で、夜に行ってみようという話になった。
言い出したのは自分じゃなくて、Aです。肝試しというより、暇つぶしに近かった。
自分の車で行きました。当時乗っていた、中古の軽です。後ろにBとC、助手席にA。
着いたのは、たしか夜の十一時すぎ。トンネルの手前に、車一台ぶんくらいの空きスペースがあって、そこに停めました。
ライトを消すと、本当に真っ暗でした。月は出ていたと思いますが、木が多くて、ほとんど届かない。
四人で、スマホのライトをつけて、トンネルのなかに入りました。
中は、思っていたより長かったです。入口からは出口の光が見えなくて、途中で軽く曲がっている感じ。
壁から、水がしみ出していました。足元のところどころに、浅い水たまり。歩くと、ぴちゃぴちゃ音がする。
真ん中あたりまで来たときです。
上から、音がしました。
天井のほうです。ミシ、ミシ、って、何かが乗っているみたいな音。
最初は、水の音かと思いました。でも、水じゃない。木がきしむみたいな、重さのある音でした。
四人とも、足を止めました。誰もしゃべらなくなった。
音は、ゆっくり動いていました。自分たちの頭の真上を、入口のほうから出口のほうへ、つたっていく感じです。
スマホのライトを、天井に向けました。コンクリートがあるだけで、何もない。
でも、音は続いていました。ミシ、ミシ、と。一歩ずつ、間をあけて。
Bが、帰ろう、と小さい声で言いました。それで、四人でほとんど駆け足で、入ってきたほうへ戻りました。
外に出て、車のところまで来て、自分はキーを出そうとして、手を止めた。
車の屋根に、足跡がついていたんです。
濡れた足跡。素足の、人の足の形。屋根の真ん中あたりに、何個か。
自分たちは、誰も屋根になんか乗っていません。停めてから、ずっと一緒にいた。
それに、雨も降っていなかった。地面は乾いていたんです。濡れていたのは、トンネルの中だけ。
Aが、ライトで照らしたまま、何も言いませんでした。Bは、もう車に乗ろうとしていた。
自分は、その足跡を写真に撮ろうとしました。でも、なぜか手が動かなくて、結局撮らないまま、乗り込んでしまった。
帰り道は、四人ともほとんど無言でした。誰も、さっきの音の話も、足跡の話もしなかった。
家に着いて、車を停めて、もう一回屋根を見ました。足跡は、まだ薄く残っていました。乾きかけて。
次の朝、見たら、もう消えていました。ただの汚れみたいなのも、残っていなかった。
あの音が何だったのか、屋根の足跡が何だったのか、今でも分かりません。
友達の誰かのいたずら、とも考えました。でも、四人とも中で一緒にいたし、あの幅のトンネルで、屋根に乗って先回りするのは無理です。
そのトンネルには、それから一度も行っていません。地元を離れたのもあるけど、たぶん近くにいても、行かなかったと思います。