旧天城トンネルで聞いた下駄の音、懐中電灯で照らしても誰もいなかった話
Mさん(仮名・40歳男性・会社員)から、メールで届いた話。20年ほど前、肝試しで行ったときのことだという。
静岡に、旧天城トンネルという、古いトンネルがあります。
石で造られた、立派なトンネルです。観光地でもあり、心霊スポットとしても知られています。
昼に行けば、写真を撮る人もいる、ふつうの観光地。夜だけ、顔が変わる。
20歳くらいのとき、自分は、友達2人と、夜に行きました。
車をおりて、3人で、トンネルの中へ、歩いて入っていきます。
中は、ひんやりして。石の壁から、ぽたぽたと、水が垂れている。
電灯はなくて、自分たちの懐中電灯だけが、頼りでした。
足音が、やけに、響きました。自分たち3人ぶんの、靴の音。
半分くらいまで、来たときです。
向こうの出口のほうから、音が、聞こえてきました。
カラン、コロン、と、乾いた音。
下駄の音でした。誰かが、下駄で、こっちに、歩いてくる。
こんな時間に、こんなところを、下駄で。
自分たちは、立ち止まって、出口のほうを、見ました。
誰も、いません。
音だけが、カラン、コロン、と、だんだん、近づいてくる。
懐中電灯で照らしても、光の中には、何もいない。
でも、音は、もう、すぐ近くまで来ていました。
自分たちは、来たほうへ、走って、引き返しました。
背中のほうで、下駄の音が、ついてきます。
カラン、コロン。自分たち3人の靴の音に、混じって。
振り返れば、止まる気がして。誰も、振り返りませんでした。
トンネルを出て、車に、飛び込みました。
ドアを閉めた瞬間、音は、止まった。
誰も、何も言いませんでした。ただ、息を、切らして。
あのトンネルの由来は、いろいろ言われています。でも、調べていません。
自分が聞いたのは、あの下駄の音だけ。
どんな顔だったかなんて、見ていない。見なくて、よかった。
それで、もう、十分でした。
あれから、20年。あのトンネルには、二度と行っていません。