町の郵便局で、戻ってきた手紙を何度も同じ宛先に出し直すおばあさんの話
Nさん(仮名・27歳女性・新潟の小さな町在住・郵便局の窓口パート)の話。共通の知人に紹介してもらい、休みの日に喫茶店で聞かせてもらった。仮名と、局の名前をぼかす条件で承諾をもらっている。
私が窓口に立つようになって、2年になります。田舎の小さな局なので、来る人はだいたい顔なじみ。
その人のことは、入ってすぐ覚えました。
70くらいの、小柄なおばあさんです。数日にいっぺん、決まって午前中に来て、手紙を一通だけ出していく。
いつも紺色のカーディガンで、髪はきちんとまとめている。受け答えもしっかりしていて、ぼけているとか、そういう感じは全然しない人。
いつも同じ。白い封筒に、ボールペンの手書き。切手を一枚買って、自分で貼って、出していきます。宛先も、たぶんずっと同じ。窓口から見える字の並びが、いつも同じだったので。
切手は、前は84円でした。値上がりして110円になっても、変わらず来ます。
私は普通に、はい、110円ですね、なんて応対してました。それ以上は、特に何も。
半年くらい前です。
そのおばあさんの手紙が、戻ってきたんです。あて所に尋ねあたりません、の付箋がついて。
うちは小さい局なので、配達のほうから窓口に、これこの前の人のだよね、と回ってくることがあります。
宛先は、県外の住所でした。番地まではよく見ていません。ただ、その付箋がつくということは、もうそこに、その宛名の人はいないということです。
こういうのは、本人に言っていいものか、少し悩みました。でも、黙って捨てるわけにもいかない。
次におばあさんが来たとき、私はちょっと迷って、これ、戻ってきてしまっていて、と渡しました。
おばあさんは、ああ、と言って、それを受け取って、帰っていきました。それだけ。
数日して、また来ました。白い封筒に、手書き。切手を一枚。
宛先を、横から見ました。この前戻ってきたものと、同じ並びでした。
字も、力の入り方も、たぶん前と同じ。慣れた手で、すっと書いた宛名でした。
それからも、戻ってくることがあります。月に一通か、二通。付箋がついて、配達から回ってきて、私が次のときに返す。おばあさんは、ああ、と受け取る。そしてまた、同じところへ出す。
一度だけ、配達の人に聞いてみました。あの宛先は、どういうところなんだろう、と。
古い住宅地で、もう建て替わっているそうです。今は別の家が建っていて、表札もぜんぜん違う名前だと。あのおばあさんが出し始めたのは、私が入るより前で、何年も続いているらしい、とも言っていました。
誰に宛てて出しているのかは、分かりません。聞いたこともないし、聞けることでもない。
今も、数日おきに来ます。白い封筒に、手書きの手紙。切手を一枚買って、貼って、出していく。
戻ってくると、私が次のときに渡す。おばあさんは、ああ、と言って、受け取る。私にできるのは、それくらいです。