深夜のスーパーで、毎晩まったく同じ三点を買っていた客
Tさん(仮名・29歳女性・地方都市のスーパーで夜勤をしていた)からメールで届いた話。メールで4往復ほど追加取材させてもらった。仮名と店名を伏せる条件で承諾をいただいている。
前の職場の話です。
二十四時間営業のスーパーで、夜勤のレジをやってました。二十二時から翌朝六時までです。三年ほどいました。
深夜はお客さんが少ないです。
多い日でも一時間に十人いくかどうか。仕事のあとに来る人、車で通りがかった人、あとは近所の常連さんでした。
その中に、毎晩来る方がいました。
男性です。年齢は七十くらいに見えました。夏でも薄手の上着を着ていて、いつも同じ帽子をかぶってました。
来るのは二時前です。
時計を見なくても分かるくらい正確でした。私が休憩から戻ると、だいたいもう店内にいます。
買うものが、いつも同じでした。
三点です。牛乳と、菓子パンと、缶詰。銘柄まで同じでした。籠には他に何も入っていません。
会話はほとんどしませんでした。
袋がいるかどうかを聞いて、答えてもらう。それだけです。声は低くて、聞き取りにくいことがありました。
常連さんとしては珍しくないと思います。
深夜に決まった時間に来る方は他にもいました。買うものが決まっている方も。それ自体は変じゃないんです。
ただ、二年近く続きました。
私がシフトに入っている日は、必ずいました。休みの日のことは分かりません。他の担当に聞いたら、その人も見ていると言っていました。
一度だけ、四点だった日があります。
いつもの三点に、袋詰めのみかんが足してありました。冬でした。
そのときも何も言いませんでした。
言う理由がないですし、レジで買い物の中身に触れるのは、うちでは避けるようにしてたので。
ある日から、来なくなりました。
気づいたのは三日目くらいです。二時を過ぎても来ない。その次の日も来ませんでした。
一週間続いて、少し気になりました。
体調を崩したのかもしれない。引っ越したのかもしれない。深夜の常連さんが急に来なくなることは、それまでにもありました。
誰にも言っていません。
お客さんが来なくなったという話を職場でするのは、なんというか、失礼な気がしたんです。
そのまま半年くらい経ちました。
店の入り口の脇に、地域の掲示板があるんです。自治会のお知らせとか、行事の案内とか、そういうものを貼る場所でした。
そこに、一枚貼られていました。
近くの地区の話です。詳しくは書きません。読んで、その方だと分かる情報が入っていました。時期も合っていました。
三点のことを思い出しました。
牛乳と菓子パンと缶詰です。それだけを毎晩買っていくということが、どういう生活なのか。当時は考えたことがありませんでした。
決めつけたくないんですけど。
あの三点で一日を回していたのなら、私は二年近く、それを毎晩見ていたことになります。
声をかける機会はありました。
みかんの日でもよかったし、その前でもよかった。何を言えばよかったのかは、今も分かりません。
その仕事はもう辞めています。
今でも、深夜のスーパーには入りにくいです。