マンションのゴミ捨て場で、収集日の前夜にすべての袋を確かめる隣人の話

約4分
マンションのゴミ捨て場で、収集日の前夜にすべての袋を確かめる隣人の話
目次
  1. ゴミ捨て場の人
  2. 順番に、全部
  3. 数えていた
  4. 分かっていること
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Aさん(仮名・36歳女性・千葉県船橋市の会社員)から届いた話。

心霊でも事件でもない。ただ、毎週決まった夜にだけ起きていることの記録として、書いておきたい。

私が住んでるのは、船橋市内の分譲マンションです。七十世帯くらいの、築十五年くらいの建物。夫と二人暮らしで、共働きです。

私は経理の仕事をしてて、月末月初は残業になります。帰りが二十二時を回る日も、月に何度かあって。

ゴミ捨て場の人

うちのマンションは、敷地の角にゴミの集積所があります。屋根と柵のある、よくあるタイプのやつです。可燃ゴミの収集が火曜と金曜の朝なので、前の晩から袋を出す人が多いんです。

始まりは去年の秋ごろ。残業帰りの月曜の夜、二十二時半くらいに、集積所の前を通りかかって。

中に、人がいました。

五十代くらいの男の人。見たことのある顔でした。同じ棟の、たぶん上の方の階の方。挨拶したことはないけど、エントランスで何度か見かけてます。

その人が、しゃがんで、ゴミ袋を触ってました。

最初は、自分の袋が破れたとか、カラスよけのネットを直してるとか、その類だろうと。そのまま通り過ぎて、エントランスに入りました。

順番に、全部

次に見たのは、二週間くらいあと。また月曜の残業帰りで、時間も同じくらいでした。

同じ人が、また中にいる。

今度は少しだけ立ち止まって見てしまったんです。防犯灯の明かりで、手元まで見えます。

その人は、袋をひとつ持ち上げて、軽く揺すって、置く。次の袋を持ち上げて、揺すって、置く。それを、順番にやってました。

自分の袋を探してるんだと思えば、思えなくもない動きです。でも、置き方が丁寧すぎる。元あった位置に、向きまで揃えて戻してるように見えたんです。

怖いというより、見てはいけない作業を見てる感じがして、足が勝手に速くなりました。

数えていた

三回目は、ついこの前。金曜収集の前の、木曜の夜でした。

その日は夫と一緒だったので、少しだけ気が大きくて、通りすがりにちゃんと見たんです。

男の人は、袋を持ち上げるたびに、口を動かしてる。

声はほとんど聞こえません。ただ、口の形で分かりました。よん、ご、ろく、って。

数えてるんです。

袋の数を数えてるなら、持ち上げる必要はないと思います。持ち上げて、揺すって、数える。だから数えてるのは、たぶん袋じゃなくて、中身です。

夫も見てた。帰ってから、何数えてたんだろうね、と言ったきり、お互いその話はしてません。

じつは先週、日中にエレベーターでその方と一緒になりました。会釈をされて、私も会釈を返して、それだけ。ごく普通の、感じのいい挨拶です。

「おはようございます」

普通の声でした。あの夜の口の動きと同じ口から出てる、と思ったら、うまく目を見られなくて。階数表示ばかり見てました。

四階で降りていく背中は、どこにでもいる会社員のもの。エレベーターの扉が閉まるまで、私はずっと数字を見てたと思います。

分かっていること

管理組合の掲示板には、ゴミ出しのマナーの注意書きが貼られたことはありますが、この件らしい話は出たことがない。

誰かの袋が荒らされた、という話も聞きません。むしろあの集積所は、いつもきれいに整ってる方です。袋が倒れてることも、カラスに破られてることも、ほとんどない。

あの人が整えてるんだと思えば、ありがたい話なのかもしれない。そう思おうとした時期もありました。

ただ、収集日の前の夜だけ、二十二時を過ぎてから、全部の袋を持ち上げて、揺すって、数を口にしている。それが何のためなのかだけ、ずっと分かりません。

最近は、ゴミを出すのが収集日の朝になりました。私が出す袋も、あの夜のうちに一度、持ち上げられてるんだと思うと。

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