アパートの隣人、夜中の3時ちょうどにドアノブを3回だけ回してから帰る女性の話

約5分
アパートの隣人、夜中の3時ちょうどにドアノブを3回だけ回してから帰る女性の話
目次
  1. 引っ越し直後の違和感
  2. 翌日も、翌々日も
  3. 1週間目、観察を始める
  4. 1か月続けて気付いたこと
  5. 2か月目、大家に確認
  6. 4か月目、廊下で初対面
  7. 半年目、女性が引っ越す
  8. 大家から聞いた話
  9. Sさんの考察
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Sさん(仮名・29歳男性・神奈川県在住の会社員)から届いた話。引っ越したばかりのアパートで、隣室の女性が毎晩3時に自分の部屋のドアノブを3回回してから入っていく行動を半年間観察した経緯。

管理人としては、アパートの隣人の習慣を長期観察した話は届く類型のなかでも比較的多いほうで、Sさんからの取材は引っ越しから半年後にメールでやり取りした。地名と物件名は完全伏字の条件で承諾いただいている。

引っ越し直後の違和感

Sさんは前年の春に転職して、神奈川県東部のアパートに引っ越した。築28年の木造、1Kの角部屋。家賃が周辺相場より安く、駅から徒歩10分で気に入った物件だった。
引っ越して1週間ほど経った夜、Sさんは隣室から聞こえる音に気付いた。深夜3時ごろ、隣室のドアノブが回る音。ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ、と3回。そのあと、ドアが開いて閉まる音がして、静かになる。

翌日も、翌々日も

翌日も同じだった。深夜3時、ドアノブの音が3回、それから入室。
「最初はたまたまかな、と思いました。隣の人が鍵を開けるのに時間がかかってるだけ、と」
でも3日続けて同じ時間、同じ回数。Sさんは少し意識するようになった。

1週間目、観察を始める

引っ越して1週間後、Sさんは深夜3時前にあえて起きて、玄関の覗き穴から廊下を確認した。
隣室の前に、20代後半くらいの女性が立っていた。茶色のロングコート、肩までの黒髪、白いスニーカー。
女性は廊下に立ち止まって、自室のドアノブに右手をかけた。ゆっくりと、ガチャッ。一度離して、もう一度ガチャッ。さらにもう一度、ガチャッ。
3回目のあと、鍵を差し込んで、ドアを開けて、入っていった。

1か月続けて気付いたこと

Sさんは1か月、覗き穴からの観察を続けた。
女性は毎晩、必ず3時ちょうどに帰宅していた。ずれることはない。雨の日も、雪が降った日も、3時。3回ドアノブを回す動作も、毎晩同じ。
「最初は防犯のおまじないかな、と考えました。鍵がちゃんとかかってるか確認してるとか。でも、入る前にドアノブを回しても、鍵がかかってるかは分からないですよね」

ドアノブを回す音以外、女性は無音だった。話し声も、テレビの音も、足音も、隣室から聞こえてこない。

2か月目、大家に確認

2か月経った頃、Sさんは月一の家賃振込のついでに、大家(70代男性)に世間話として聞いてみた。
「隣の方、夜のお仕事ですか。深夜に帰ってこられるみたいで」
大家は少し考えてから答えた。「ああ、お隣さんね。看護師さんですよ。市民病院の夜勤明けで、いつも3時頃帰ってこられる、と前に話してくれました」

看護師の夜勤シフトであれば、深夜3時前後の帰宅は説明がつく。ただし、ドアノブを3回回す習慣の理由は不明のままだった。

4か月目、廊下で初対面

4か月目の週末、Sさんはたまたまゴミ出しの時間に女性と廊下ですれ違った。
「会釈程度の挨拶を交わしました。間近で見ると、目の下のクマが濃くて、夜勤を続けてる方なんだな、と納得しました」
女性は『おはようございます』と小さく返してくれた。声は普通だった。挨拶以外の会話はなかった。

半年目、女性が引っ越す

半年経った頃、Sさんは廊下で大家と立ち話をした。
「お隣さん、来月引っ越されるそうですよ。病院の異動で、寮に移られるそうで」
その2週間後、女性は引っ越していった。Sさんは挨拶のタイミングを逃した。

大家から聞いた話

女性の引っ越しから1週間後、大家がSさんの部屋を訪ねてきた。空室になった隣室の確認のため、と。
立ち話のなかで、大家がぽろりと話した。
「あの部屋ね、3年前にも看護師さんが住んでたんですよ。市民病院の同じ夜勤シフト。今回の方とは別の人なんですけどね」

大家が続けて言った。「『前の住人の方も、夜3時に帰ってきて、ドアノブを3回回す癖があった』ってのは、私も気付いてました。でも、それを今回の住人に伝えたわけじゃないんです。たまたま同じ習慣だった、と思います」

Sさんの考察

Sさんはそのあと、市民病院の看護師の知人に聞いてみた。
『夜勤明けのドアノブを3回回す習慣』は、看護師の世界で共通する儀礼ではない、とのこと。仕事のスイッチを切るための個人的なルーティンの可能性が高い、と知人は答えた、と。

「半年間、毎晩3時に同じ音を聞いて、自分なりに考えたんですけど、結局、理由は分からないままです。たまたま2人連続で同じ習慣を持った人が同じ部屋を借りた、というのが大家さんの説明で、それを信じるしかないのかな、と」

Sさんは現在もそのアパートに住んでいる。新しい隣人は別の単身者で、3時に帰ってくることはない、と。

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