団地の隣、ずっと空き部屋のはずの部屋から毎晩テレビの音と子どもの足音がした話

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団地の隣、ずっと空き部屋のはずの部屋から毎晩テレビの音と子どもの足音がした話
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Aさん(仮名・29歳女性・会社員)から、サイトのフォーム経由で届いた話。子どものころに住んでいた団地での話だという。

小学生のころ、古い団地に住んでいました。

5階建ての、いちばん端の棟。うちは、4階でした。

うちの隣は、ずっと、空き部屋でした。

誰も住んでいない。表札も、ない。郵便受けにも、何も入っていません。

電気のメーターも、止まったまま。誰がどう見ても、空き部屋でした。

なのに、夜になると、音がするんです。

壁の向こうから、テレビの音。ぼそぼそ、という、人の声みたいなのも。

小さな子どもが、ぱたぱた走るような、足音もしました。

私は、てっきり、誰か引っ越してきたんだと思っていました。

母に言うと、あそこは、ずっと空いてるよ、と。

管理人さんにも、聞いてみたそうです。何年も、誰も入っていない、という返事でした。

不動産屋の募集に、出ている様子もなかった。ただ、空いている、というだけ。

でも、音は、毎晩。決まって、夜の9時くらいから。

テレビの音。子どもの足音。ときどき、笑い声みたいなのも、混じる。

私は、だんだん、慣れてしまいました。子どもって、そういうものです。

聞こえない夜のほうが、かえって落ち着かなかった。それくらい、当たり前になっていた。

おかしいと、はっきり思ったのは、ある秋の夕方でした。

習い事の帰りに、団地を、下から見上げたんです。

うちの、隣の部屋。4階の、いちばん端の窓。

カーテンも何もない、空っぽの窓でした。

その、ガラスの内側に、手の跡が、ついていたんです。

小さい、子どもの手の跡。ぺたぺたと、いくつも。

前の日は、なかったはずでした。誰も入れない部屋なのに。

私は、母に言いませんでした。なんとなく、言っちゃいけない気がして。

その団地は、私が中学に上がる前に、引っ越しました。

理由は、それじゃありません。父の、転勤です。

ただ、最後の日まで、隣の部屋のテレビの音は、続いていました。

荷物を運び出す、その昼間にも、壁の向こうで、ぼそぼそと音がしていた。

今、あの団地が、まだあるのかは、分かりません。

隣の部屋で、今、誰がテレビを見ているのかも、分かりません。

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