心霊スポットと知らず夜のトンネルを車で通ったら、走る助手席の窓に濡れた顔が貼りついていた話
Yさん(仮名・35歳男性・会社員)から、メールで届いた話。若いころ、夜にその道を通ったときの体験だという。
関西のほうに、地元で朝鮮トンネルと呼ばれている、古いトンネルがあります。
心霊スポットとして、知られた場所だそうです。
なぜそう呼ばれているのか、自分は知りません。由来のようなものも、調べていない。ただ、出る、と言われているだけ。
当時つきあっていた彼女と、夜のドライブの帰りでした。
ナビが、近道だと案内したんです。細い、山あいの県道。
そのトンネルが心霊スポットだなんて、そのときは、知りませんでした。
トンネルは、古くて、狭い。オレンジ色の、薄暗い明かりが点いている。
中ほどまで来たとき、急に、車の中が、寒くなりました。
クーラーは、つけていません。なのに、息が白くなるくらい、冷えた。
ラジオが、ぶつっと切れました。
彼女が、ねえ、誰か叩いてる、と言いました。
助手席の窓を、コツ、コツ、と叩く音。
時速40キロは、出ていました。トンネルの中です。外に、人がいるわけがない。
自分は、つい、助手席のほうを見ました。
窓の外に、顔がありました。
ガラスに、ぴったり貼りついて。濡れた、青白い顔が、こっちを、覗き込んでいる。
走っているのに、その顔だけ、ずっと、同じ位置にありました。
彼女は、悲鳴も出ないみたいで、固まっている。
自分は、アクセルを、思いきり踏みました。
トンネルの出口の明かりが、近づいてくる。
外に出た瞬間、車の中の空気が、ふっと、もとに戻りました。
ラジオも、また鳴り出した。寒さも、消えている。
しばらく走って、明るいコンビニの駐車場に、車を停めました。
彼女は、ずっと、震えていた。
助手席の窓を見たら、外側に、濡れた手の跡が、ついていたんです。
手の跡と、それから、頬を押しつけたみたいな、大きな滲み。
内側じゃありません。外側です。走っている車の、外側に。
その彼女とは、今、結婚しています。でも、あの夜の話は、お互い、ほとんどしません。
あのトンネルが、なんであんなふうに呼ばれているのか。自分は、今も知らないし、知りたくもありません。