古いラブホテルの天井の鏡に、寝ているはずのない女が映っていた話
Nさん(仮名・34歳女性・会社員)から、サイトのフォーム経由で届いた話。20代のころ、旅行先で泊まった部屋での体験だという。場所は伏せる。
当時つきあっていた彼と、地方へ旅行に行ったときのことです。
夜遅くに着いて、予約していた宿が、手違いで泊まれなくなって。
近くで空いていたのが、古いラブホテルだけでした。ほかに、選びようがなかった。
建物は、かなり古い感じでした。看板の電気も、半分消えていて。
廊下は薄暗くて、消臭剤の、甘ったるいにおい。
通されたのは、いちばん奥の、いちばん安い部屋。
天井に、大きな鏡がついている、昔ふうの部屋でした。
シャワーを浴びて、テレビをつけて、すぐに寝ました。長い移動で、疲れていたので。
夜中に、ふと目が覚めました。
喉が渇いたな、と思って、薄目を開けた。
天井の鏡が、目に入りました。
私と、彼が、並んで寝ている。その、真ん中に。
もう一人、寝ていました。
長い髪の、女の人。仰向けで、こちらを、まっすぐ見上げている。
私は、自分のすぐ横を見ました。彼が、いるだけ。ほかには、誰もいない。
でも、鏡の中には、3人いる。
もう一度、鏡を見ました。女は、まだ、こっちを見ていました。
見間違いだ、と思いたかった。でも、目は、はっきり開いていた。
私は、目を、ぎゅっとつぶりました。
そのとき、浴室のほうで、水の音がしたんです。
シャワーが出しっぱなしのような、ザーッという音。
さっき、ちゃんと止めたはずでした。
彼を、揺り起こしました。水の音、と言ったら、彼も、それで起きた。
二人で、浴室を見に行きました。
シャワーは、止まっていました。でも、床も、壁も、ぜんぶ濡れている。たった今、誰かが浴びたみたいに。
鏡も、湯気で、白く曇っていた。私たちは、シャワーなんて使っていないのに。
私たちは、それ以上、その部屋にいられませんでした。
荷物をまとめて、フロントに鍵を置いて、夜中の3時に、外へ出た。
車に乗ってから、彼が、ぽつりと言いました。
俺も、さっき、天井に、誰かいるの見えてた、と。
あのホテルが、今もあるのかは、分かりません。場所も、もう、思い出せない。
ただ、天井に鏡のある部屋にだけは、それから、一度も泊まっていません。