古虎渓ハウスへ肝試しに行った翌日、奥の部屋にいた先輩の背中にひっかき傷があった話
Rさん(仮名・33歳男性・会社員)から、メールで届いた話。学生のころ、肝試しで行った場所のことだという。
岐阜に、古虎渓ハウスという、有名な廃墟があります。
心霊スポットとしては、わりと知られた場所です。山の中の、古い家。
昔、その家で何かあった、と言われています。詳しいことは、自分も知りません。地元では、いろいろ言われているみたいでした。
大学2年のとき、サークルの先輩に誘われて、3人で行きました。
夜の10時すぎ。車を停めて、懐中電灯ひとつで、山道を登っていきます。
家は、思ったより、大きかった。窓ガラスは割れて、壁には、スプレーの落書きがびっしり。
中に入ると、埃と、カビのにおいがしました。床は、ところどころ抜けている。
懐中電灯の光が、届かない奥。そこだけ、ただ、まっくら。
正直、最初は、はしゃいでいました。肝試しなんて、そんなものです。
床が、ぎし、と鳴った。それすら、笑っていた。
1階を見て回って、2階へ上がろうとしたときでした。
上から、足音がしたんです。
ミシ、ミシ、と、床板を踏むような音。
先輩が、誰かいるんじゃないか、と言いました。ホームレスとか、ほかの肝試しとか。
3人で、こわごわ、2階へ上がりました。
誰も、いません。
いちばん奥の部屋だけ、壁紙が、べろりと剥がれていました。
その、剥き出しになった壁に、傷がついていたんです。
正の字でした。爪で引っかいたみたいな、細い線で、いくつも。
新しい傷に、見えました。ほかの落書きは古いのに、その正の字だけ、白くて、新しい。
自分が、それを数えようとした、そのときです。
すぐ後ろで、カリ、カリ、と、何かを引っかく音がしました。
振り返っても、誰もいない。壁が、あるだけ。
でも、音は、続いていました。カリ、カリ、と。
誰からともなく、自分たちは、階段を駆け下りました。
転びそうになりながら、山道を下って、車に飛び込んだ。
その夜は、それで、終わりました。
次の日です。いちばん奥の部屋にいた先輩が、背中が痛い、と言い出しました。
シャツをめくると、肩甲骨のあたりに、細い、ひっかき傷が、何本も。
自分たちは、誰も、先輩の背中に触れていません。
病院に行くほどじゃない、と先輩は笑っていた。でも、自分は、笑えなかった。
あの正の字が、いくつあったのか。数えなくて、よかったと思っています。