千駄ヶ谷トンネル、上から見ている話
Wさん(仮名・34歳女性・東京都内のフリーアシスタント)からSNSのDMで届いた話。DMで5往復ほど追加取材させてもらった。場所は東京都渋谷区の千駄ヶ谷トンネル。天井の真上が青山霊園で、深夜に女性の幽霊が出るという噂は都内のタクシー運転手の間で有名。場所と噂はそのまま掲載することになった。同伴者の名前と勤務先は本人希望で伏せ字。本筋はそのまま。
これは去年の冬、深夜にタクシーで通った時の話で、いまも上手く整理できてないんですけど、書いておこうと思います。
仕事は、東京の渋谷区の方でフリーランスのアシスタント業。
仕事柄、深夜にタクシーで移動することが多くて、原宿の事務所から青山経由で帰ることもよくあります。
その日も、12月のはじめ。雨が降ってました。
仕事終わりが午前1時前くらい。事務所の前でタクシーを拾って、世田谷の自宅まで向かってもらいました。
千駄ヶ谷トンネルって、ご存知の方は多いと思うんですけど、トンネルの真上が青山霊園で、深夜に通ると女性の幽霊が出る、という噂が都内のタクシー運転手の間で有名らしいんです。
私は前から、運転手さんに何度か聞いたことがあって、「ああ、あそこね」と苦笑いされる感じの場所。
その日のタクシーの運転手さんは、最初は普通でした。
40代後半くらいの男性。明治通りからトンネルに入る前に、私と少し雑談してました。
仕事の話とか、雨で混んでますね、みたいな話。
トンネルに入ってからの30秒、運転手さんが急に黙りました。
ラジオは消えてはなかったんですけど、入る前に流れてた音楽が、ノイズに変わって、なんとなく聞き取れなくなりました。
千駄ヶ谷トンネル、ラジオで検索すると出てくる現象らしい。後で知りました。
私は気にせずスマホを見てたんですけど、ふと顔を上げると、運転手さんがバックミラーをじっと見てました。
信号待ちじゃないので、後ろを気にする必要はないはず。
ミラーを見て、それから自分の右側、運転席の右の窓の方に、ちらっと視線を逃がして、また前を向く。
それを、トンネルを抜けるまで何度か繰り返す。
私は後部座席の左側に座ってました。
何かいた、と言いたいわけではないんです。
ただ、運転手さんの目線が動くたびに、後ろの座席の右側、私の隣のあたりが、なんとなく重い。
重い、というのが正確じゃないかもしれません。
誰かが座っている時の、空気のたまり方、というか。
トンネルを抜けて、明治神宮外苑に出るあたりで、運転手さんが大きく息を吐きました。
「ふう」じゃなくて、もっと、止めていた息を出すような感じで。
私が「あの、大丈夫ですか」と声をかけたら、運転手さんは「すみません」と一言だけ言いました。
それから、世田谷の自宅まで、運転手さんはずっと無言。
家に着いて、降りるときに、私は思い切って聞いたんです。
「もしかして、何か見ました?」って。
運転手さんは少し考えて、「お客さん、あのトンネルは、上から見られてるんですよ」と言いました。
ミラーじゃなくて、上から、と。
それだけ言って、車を出していきました。
家に入ってから、ネットで「千駄ヶ谷トンネル」を検索しました。
出てくるのは、ほとんどが「ミラーに女性の幽霊が映る」という話。
天井の真上が青山霊園、というのも知りました。
でも、運転手さんが言った「上から見られてる」という表現は、あまり出てきません。
ネットの噂は「ミラーに何かが映る」「抜けるとラジオが切れる」が中心。
私の体験は、ミラーじゃなくて、後部座席の右側に何かが座っていたかもしれない、という曖昧なもの。運転手さんが見ていたのは、たぶんミラーじゃなくて、ミラー越しの天井のあたりだったんです。
運転手さんの「上から見られてる」が、何を意味しているのかは、いまも分かりません。
ただ、それ以来、深夜に千駄ヶ谷トンネルを通るタクシーには、できれば乗らないように。
通る場合は、必ず後部座席の真ん中に座って、隣を空けないようにしてます。
それで何かが変わるわけではない、と自分でも思う。
ただ、空けておくと何かが座る気がして、それが嫌なんです。