海岸に毎年漂着する、同じ柄の古い瓶の話
目次
Xさん(仮名・60歳男性・鳥取県の元・小学校教員)から届いた話。毎年9月に散歩する海岸に、毎年同じ柄の古い瓶が漂着する経緯。8年連続で確認している。
退職後の毎日の散歩
Xさんは55歳で小学校教員を早期退職。退職後、自宅から徒歩10分の海岸を、毎日朝に1時間散歩するのが日課になった。
「海岸を歩きながら、漂着物を観察するのが、私の楽しみのひとつでした」
退職翌年の9月、最初の瓶
退職翌年の9月、Xさんが海岸を歩いていた時。砂浜に、古い瓶が漂着していた。
「ガラス瓶、高さ20センチほど。緑色のガラスに、白い字で『○○○○』と書かれていた。日本語ではなく、ハングルとも違う、独特の文字でした」
中身は無い、外側だけ
瓶の中身は空。コルク栓も無い、ただの古い瓶だった。
Xさんは興味本位で持ち帰った。自宅で洗って、リビングの棚に飾った。
翌年の9月、同じ柄の瓶
翌年の9月、海岸を散歩していた時。Xさんが、また同じ柄の瓶を見つけた。前年の瓶と、同じ緑色のガラス、同じ白い文字。
「持ち帰って、前年の瓶と並べました。完全に同じデザインでした」
8年連続、漂着場所は半径100メートル以内
それから毎年9月、Xさんは同じ柄の瓶を、海岸の同じ範囲(半径100メートル以内)で見つけ続けている。8年連続。
「合計8本の瓶が、自宅の棚に並んでいます。すべて同じデザイン、すべて空、すべて漂着の損傷あり」
ガラスの専門家に鑑定依頼
Xさんは、地元の博物館でガラス工芸の専門家に鑑定を依頼した。
専門家の見解:『ガラスの組成、刻印の形状から、1960年代の韓国の地方工房製と推定。文字は古い韓国語の地名らしいが、現在は使われていない可能性がある』
つまり、60年以上前のガラス瓶が、毎年同じ海岸に漂着していることになる。
どこから来ているのか不明
鳥取県の海岸には、対馬海流に乗って韓国・北朝鮮からの漂着物が時々ある。ただ、同じ柄の瓶が60年以上経っても毎年来る、という現象は、Xさんが知る限り、他では聞いたことがない。
「韓国の専門家に問い合わせたわけではないので、推測です。ただ、毎年同じ場所に同じ瓶が来る、という事実だけは、私が8年間確認しています」
今年も、9月に1本
今年の9月も、Xさんは海岸で同じ柄の瓶を1本見つけた。これで9本目。
「自宅の棚に9本並んでいます。妻からは『そろそろ整理してほしい』と言われていますが、私は処分するつもりはありません。来年も、たぶん、また来ます」
追加で聞いた話
取材のあと、Xさんが海洋ごみ研究を行っている大学の研究室に、写真と経緯を送って意見を求めた、と連絡が来た。
「『同じ柄の瓶が毎年同じ場所に漂着するパターンは、上流の同一保管庫の崩壊が継続している可能性がある』と回答が来ました。古い倉庫が崩れて、内容物が少しずつ海に流れ出している、というシナリオです」
その仮説だと、瓶の供給源には限度がある。研究者からは『あと数年でパターンが変わる、もしくは止まる可能性が高い』と言われた、と。
「『止まるまでの間、漂着の頻度と場所を記録しておくと、海流研究の貴重なデータになります』と教えてもらいました。来年からは記録の取り方を変えるつもりです」
Xさんは、9本の瓶を、退職後の生活の記念として並べ続けている。
「妻に『教員退職後にやることを見つけてくれて良かった』と冗談を言われました。漂着物の観察記録、というのが、私のここ8年の習慣になっています」