十年ぶりに会った同級生の話
Eさん(仮名・28歳男性・関東のメーカーで技術職)からDMで3往復ほど追加取材させてもらった。
これは去年の秋、俺の高校の卒業10周年の同窓会の話。
俺はいま27歳で、都内の中堅のIT企業に勤めてる。社内SE寄りのインフラ部門で、入社して5年目。
出身は埼玉。地元の県立高校から都内の大学に進んで、就職もこっち。地元には盆と正月くらいしか帰ってない。同級生とのつながりも、年に何回かのLINEがあるくらい。
幹事の女子から連絡が来たのは9月の頭。11月の3連休の中日に、地元駅近くのホテルの宴会場で、当時の学年100人ちょっとが集まる、という話だった。
俺は別に行く気は強くなかった。でもAが来るらしい、と聞いて行くことにした。
Aは高校時代、俺の1番の親友。1年から3年までずっと同じクラスで、サッカー部も一緒。放課後は週4でファミレスにいた。
卒業後はAが関西の大学に進んで、就職も大阪の会社に入ったらしい。LINEは続いてたんだけど、お互い何となく途切れて、ここ5年くらいはほとんどやりとりがない。
10年ぶりに会えるのは、純粋に楽しみだった。
当日、宴会場に着いたら、Aはもう先に来てた。スーツの上着を椅子の背にかけて、別のテーブルの女子たちと話してる。
俺が声をかけると、おう久しぶり、と笑って手を上げた。雰囲気は高校の頃のままに見えた。
立食形式の本会は2時間で終わる。Aと俺は、2次会は2人で軽く飲もう、という話になって、駅前の大衆居酒屋に移った。
半個室で、ハイボールを頼んで乾杯したのが9時前くらい。
最初の30分は、本当に普通だった。担任の口癖の話とか、隣のクラスの誰々がもう3人目を産んだとか、懐かしい話で盛り上がる。
Aは昔と同じテンポで喋ってた。
違和感が出てきたのは、サッカー部の話になってから。
Aが、あの県大会の準決勝、と切り出した。
俺らの代の準決勝はPK戦の末に負けた試合。俺はそれをずっと覚えてる。
Aが言うには、あれは延長で逆転して勝った試合で、次の決勝で負けたんだ、ということらしい。
俺は、いやPKで負けたよ、と笑って返した。Aは少し首をかしげて、いや勝った勝った、と言い直してくる。
記憶違いだろう、と思って、それ以上突っ込まなかった。
次に修学旅行の話になった。俺らは3年の春に京都と奈良に行ってる。
Aが、俺らあの時さ、夜にホテル抜け出してコンビニまで歩いた話覚えてる、と言ってくる。
俺はその話に覚えがなかった。
抜け出したのは別のクラスのやつらの話で、俺とAはそのとき部屋でゲームをしてたはず。
Aは、いやお前と2人で行ったって、と笑いながら、その時に買ったアイスの種類まで言ってきた。
俺は段々、笑えなくなってきた。
そのあとも、Aの言う『俺らあの時さ』のエピソードが、何個も俺の記憶と合わない。
文化祭の出し物、2年の席替えで誰の隣か、卒業式のあとの打ち上げの場所。全部少しずつズレてる。
Aは確信を持って話してる。俺の方が間違ってるのかも、と一瞬思ったけど、自分の記憶の方が違う、と思える種類の話じゃない。
俺はスマホを出して、さっき本会で撮った集合写真を見せた。
最前列の右から3番目に、Aが普通に写ってる。これさっき撮ったやつ、と俺が言うと、Aはちらっと画面を見て、これ俺じゃないよ、と言った。
冗談のトーンでもなくて、ただ事実として言ってる感じ。
マジで何を言われてるのか分からなかった。
俺はその場で軽く話を流して、お会計をして店を出た。
Aは駅まで一緒に歩いてくる。改札の前で、また飲もう、と普通に手を振って別れた。
家に帰る電車の中で、卒業アルバムのデータをスマホで開いた。
3年の時のクラスのページで、Aの顔写真をじっと見る。
さっき店で向かいに座ってたのは、確かにこの顔の人。眉の形も、笑った時のえくぼも、全部一致してた。
次の日、AにLINEを送った。昨日はありがとう、というだけのメッセージ。
既読はつかない。1週間経っても、1ヶ月経っても、つかなかった。電話をかけても、出ない。
気になって幹事の女子に確認した。Aは本会に来てたよね、と。
幹事は、来てたよ、お前ら2人で居酒屋行くって言って先に出てったじゃん、と返してくる。当日のグループLINEのスクショも送ってくれた。Aの発言が残ってる。
結局、俺があの夜、本物のAと2人で居酒屋に行ったのか、別の誰かと行ったのか、いまも分からない。
Aとは連絡が取れないまま。共通の知人経由で聞いた話だと、Aは大阪で普通に働いていて、こっちには10年ぶりに同窓会で帰ってきただけ、ということだった。
あの夜から、俺は同窓会に出るのをやめた。
次の15周年も20周年も、たぶん行かないと思う。地元の駅で降りるのも、あの居酒屋の前を通るのも、避けるようになった。
たまに、街中ですれ違う人の中に、当時の同級生に似た顔の人を見ることがある。
本人ではないと頭では分かってる。それでも、目に入った瞬間に体が1回固まって、しばらく動けなくなる。
あの夜の向かいの席に座ってたのが、本物のAだったのか、別の誰かだったのか。それを確かめる方法は、もうない。