コンビニ夜勤で半年通ってきてた男の話

約5分
コンビニ夜勤で半年通ってきてた男の話
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Aさん(仮名・24歳男性・都内のチェーンカフェ勤務)から

これはコンビニのバイトの話で、2年前くらいの話なんですけど。

当時、私は22歳。専門を中退してから1年ちょっと、フリーターをやってた。

昼の仕事が続かなくて、結局たどり着いたのが深夜のコンビニだった。場所は首都圏のターミナル駅から歩いて5分くらいの路面店。駅から繁華街に抜ける1本道の途中にある。

シフトは週4で、22時から朝7時までの夜勤専属。深夜帯は基本ワンオペで、店長が23時頃に上がってから朝5時の早番までひとり。

そのお店は深夜の客足が変則的だった。終電あとの1時前後にどっと酔っ払いの波が来て、2時前にいったん引く。

2時から4時くらいまでが、いちばん静かな時間帯。弁当の検品、廃棄まとめ、レジ周りの掃除はだいたいこの時間にやってた。

その人を初めて意識したのは、夜勤に入って2週間目くらいのことだった。

2時を少し回った頃に自動ドアが開いて、男の人が入ってきた。

30代の後半くらい。黒っぽいスーツを着て、ネクタイは外してる。無精髭が顎の下に残ってて、髪は寝癖というよりは、汗で乾いた感じの跡がついてた。

会社帰りにしては時間が遅すぎるし、飲み会帰りにしては酒の匂いがしない。

男の人は、まっすぐ酒のケースに歩いて、ワンカップの日本酒を1本取って、おにぎりの棚で鮭のおにぎりを1個取って、レジに持ってくる。

お会計の間、1言も話さない。私が、420円です、と言っても、いらっしゃいませ、と最初に言っても、何の反応もない。

財布から1000円札を出して、お釣りを受け取って、レシートはいらないという感じで首だけ振って、袋を持って出ていった。

変なお客さんだな、と思った。深夜のコンビニにはいろんな人が来る。1人くらい無口な人がいても、特に怖くはない。

気になったのは、その次の日も、ほぼ同じ時刻に、同じ男の人が、同じ買い物をしていったことだった。

ワンカップ1本と、鮭のおにぎり1個。現金で、無言で、レシートいらずで。

3日目も来た。4日目も。

1週間目で、これはもう常連なんだと理解した。

私は新人だったので、最初は世間話のつもりで、いつもありがとうございます、と言ってみたんですけど。男の人は、こちらを見ずに、釣り銭を受け取って袋を持って出ていく。

聞こえてないのか、無視してるのか、判別がつかない。それから私も、声をかけるのをやめた。

そのパターンが、半年続いた。

シフトの曜日を動かしても、私が入る夜には必ず男の人が2時前後に来る。買い物の中身は、半年間まったく変わらない。

ワンカップ1本と、鮭のおにぎり1個。台風の日も、雪の日も、年末も。

異変があったのは、半年経ったくらいの夜だった。

他のお客さんがほとんどなくて、2時10分頃に男の人がいつも通り入ってきた。いつも通り、酒のケースの前を経由して、おにぎりの棚に寄って、レジに来る。

バーコードを通して、420円です、と言った。

男の人が、レジの上に手をついて、私の名札の方をじっと見てから、口を開いた。

それまで半年、一度も声を聞いたことがない。

男の人は、私の名字を、フルネームでもう一度、ゆっくりと読み上げる。下の名前まで、なぜか知ってた。

名札に書いてあるのは名字のカタカナだけ。下の名前は、シフト表とタイムカードと連絡ノートにしか書いてない。

私は何も言えなくて、お釣りを差し出すだけ差し出した。

男の人は、お釣りを受け取って、袋を持って、いつも通り出ていく。最後に振り返ることもしない。

その夜、5時の早番でカナさんという40代の主婦の先輩が来た時に、私はその話をした。

手が少し震えてたので、最初は廃棄の話をしてるみたいなトーンで切り出して、途中から本題に入った。

スーツで無精髭の30代の男、いつも2時頃、ワンカップとおにぎりの鮭、半年通ってきてる、今日初めて口を開いてフルネームで呼ばれました、と。

カナさんは、レジの中で在庫表を書いてた手を止めて、しばらく黙ってる。

それから1言だけ、その人のことは、もう話さない方がいいよ、と言った。

カナさんも、別の店舗で同じことをやられたことがあったらしい。ターミナルを挟んで反対側にあった同じチェーンの夜勤で、10年近く前のことだそう。

詳しくは話してくれない。話すと、また来るから、というようなことを、独り言みたいに言ってた。

結局、私はシフトを朝5時から14時の早朝帯に変えてもらった。理由は、生活リズムを戻したいから、ということに。

早朝に変えてからは、男の人を見ることはなくなった。

そのお店は、3ヶ月後に店長が異動になって、内装のリニューアルでバイトも一新された。私もそれを機にやめた。カナさんとは、それきり連絡を取ってない。

あの男の人が誰だったのか、いまも私は知らない。

私の名前をどうやって知ったのかも、本当に半年通ってきてたのか、別の店舗にいた頃から見られていたのか、何も分かってない。

ただ、コンビニの自動ドアの音を聞くと、いまでも一瞬、2時のあのレジに戻されるような感じがある。

シフト表に下の名前を書く欄があると、いまでも書く前に少し手が止まる。

こっちにも、もうひとつ

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