お盆に久しぶりに親戚と会った話
Dさん(仮名・40歳男性・東京都内勤務)の話。共通の知人を介して連絡をもらいDMで3往復ほど話を伺った。仮名と地名ぼかし条件で承諾をいただいている。
これは去年のお盆、自分が実家に帰省した時の話なんですけど。
自分は40で、東京の会社に勤めてます。妻と小学3年の娘が一人、郊外のマンション住まい。
実家は北陸の方で、親戚づきあいが濃い土地。
盆と正月は本家に親戚が集まるのが昔からの決まり。本家の集まりに出るのは、たぶん7年ぶりくらいだった。
去年の盆は妻の運転で帰った。十三日の昼前に着いて、夕方から本家へ3人で歩いて向かったんです。
本家は伯父の家。自分の実家から徒歩で10分くらい。座敷に座卓を2つ並べて、料理が並んでた。
集まってたのは伯父夫婦と、伯父の長男の家族、それに父方の従兄妹が2人。合わせて15人くらい。
従兄妹のうちの一人が、ななちゃん。
子どもの頃、自分が一番よく遊んでもらってた従姉だ。自分の3つ上で、夏休みに本家へ泊まりに行くと、必ず一緒にラジオ体操に行って、川で遊んで、夜は花火をしてたんです。
10年以上は会ってない。座敷の隅で娘を膝に乗せて、伯母と話してた。
自分は娘を妻に預けて、ななちゃんの隣に座ったんです。
久しぶり、と言ったら、ななちゃんは顔を上げて、久しぶりって言うほどじゃないかも、と笑った。
声は少しかすれてて、子どもの頃のイメージとは違ってた。でも笑い方はそのまま。
それからしばらく、子どもの頃の話で盛り上がりました。
気になり始めたのは、海の話を出した時。
自分が小学校の4年か5年の夏、ななちゃんの両親と自分の両親、合わせて8人くらいで一泊二日で能登の方の海に行ったことがあったんです。
あの旅行楽しかったよね、と言ったら、ななちゃんは少し首を傾げて、楽しかった、と言った。
夕飯に出た焼きそばの話を振ると、焼きそばじゃなくて、カレーだよ、とななちゃんが言うんです。
あと、宿は2階建ての民宿で、手前に自販機が2台あって、と自分が言ったら、ななちゃんは、自販機は1台じゃなかったかな、と。
妙に細かいところで食い違う。自分は一回笑って、記憶ってあてにならないな、と話を流したんです。
ななちゃんは、それでも、桟橋で釣り糸を垂らしてたのは覚えてる、と言うんです。
自分が何も釣れなくて、最後にエサだけ全部魚に取られた、と。
これは、自分以外には知らないはずの細部。少なくとも本家で話題にしたことはない。
そのうち娘が眠くなってきたので、9時前に妻と娘を先に帰しました。
自分はもう少し残って、伯父と日本酒を飲んで、11時頃に実家へ戻ったんです。
家に戻ってから、古いアルバムを引っ張り出して、海の旅行の写真を探したんです。
茶封筒の中に、桟橋で釣り糸を垂らしてる小学生の自分と、隣でピースしてる女の子の写真があった。色あせてるけど、顔ははっきり写ってる。
翌日の昼、その写真を持って本家へもう一度顔を出したんです。ななちゃんはまだ泊まってた。
これ覚えてる、と差し出したら、ななちゃんは写真をしばらく見つめて、これ、私じゃないよ、と言うんです。
顔から血の気が引いた。
自分は黙って実家へ戻って、母に写真を見せたんです。
母は写真を見て、それから自分の顔を見て、お前、何言ってるの、と言う。
これはお姉ちゃんのほうの、菜々ちゃんでしょ、と。あの子は10年前にバイクの事故で亡くなったのよ、と。
昨日座敷にいたのは、妹のほうの実里ちゃんだよ、と母は続けた。よく似てるから、子どもの頃から間違える人が多かったでしょう、と。
言われてみれば、自分は子どもの頃から、ななちゃんと、その3つ下の妹のみーちゃんを、よく取り違えてたんです。顔も、髪型も、よく似てた姉妹らしいです。
10年前の葬式に出られなかったのは、海外出張中だったから。母から後で電話で聞いて、香典だけ送ったのは覚えてます。
それも、姉と妹を、ちゃんと自分の中で区別できてなかったように思います。
つまり昨日、本家で隣に座っていたのは、姉のななちゃんではなく、妹のみーちゃん。
自分が勝手に、姉だと思い込んで話しかけていただけ。みーちゃんも、最初は話を合わせてくれてただけなんでしょう。それで辻褄が合います。
合わない部分が、一つだけ残ってる。
海の旅行に行ったのは、自分が小学校の4年か5年の夏で、姉のほうのななちゃんが一緒に行った年。妹のみーちゃんは、その年はまだ3歳か4歳で、留守番してたんです。
今朝、母に確認しました。みーちゃんはあの旅行には行ってない、と母ははっきり言いました。
桟橋でエサだけ全部取られた話を、昨日の夜、隣でちゃんと覚えてたのが、誰なのか。自分はまだ整理できてません。
みーちゃんに直接聞けばいい話なんですけど、いま電話する勇気が出ないので、しばらく置いてから、また考えようと思ってます。