縮刷版に載っていて、マイクロフィルムに無い三行
Kさん(仮名・24歳男性・地方紙の資料室でアルバイト)からメールで届いた話。メールで6往復ほど追加取材させてもらった。仮名と社名を伏せる条件で承諾をいただいている。
資料室でアルバイトをしています。
大学院で近代史をやっていて、その縁で紹介してもらいました。週三日、過去の紙面を探す仕事です。
問い合わせが来ます。
読者の方からもありますし、社内の記者からもあります。何年何月何日の何面、という形で来ることもあれば、この出来事の記事を探してほしい、という形で来ることもありました。
資料室には二種類あります。
製本された縮刷版と、マイクロフィルムです。縮刷版は紙面を縮小して印刷して綴じたもの。フィルムは撮影したものです。どちらも同じ紙面のはずでした。
普段はどちらか片方しか見ません。
縮刷版のほうが早いので、私はだいたい縮刷版で探します。フィルムを使うのは、縮刷版が貸出中のときか、細かい文字を拡大したいときでした。
去年の秋に、両方を見る問い合わせがありました。
ある年の三面を、写しではなく撮影データで欲しい、という依頼でした。だからフィルムから出す必要があったんです。
先に縮刷版で場所を確認しました。
目的の記事は三面の右下にありました。付箋を貼って、それからフィルムのリーダーに向かいました。
同じ日付を出しました。
三面が出ます。右下を見ました。目的の記事はありました。ただ、その下が違っていたんです。
縮刷版には、三行の記事がありました。
フィルムには、それがありませんでした。その場所に別の記事が繰り上がって入っていて、紙面としては成立していました。
最初は自分の見間違いだと思いました。
縮刷版に戻って確認しました。ありました。三行です。見出しはついていません。本文だけの短いものでした。
山の中で人が見つかった、という趣旨の記事でした。
場所は町名までで、名前は伏せられています。年齢と性別も書かれていません。発見された、とだけ書いてありました。
前後の紙面は全部一致していました。
一面から最終面まで、順に見比べました。違うのは三面の右下、その三行のところだけです。他は広告の位置まで同じでした。
上司に聞きました。
版違いだろう、という返事でした。朝刊には版がいくつかあって、地域や締切で中身が変わる。片方が早版で、片方が最終版なら、記事の入れ替えは起きるそうです。
それで納得しかけました。
ただ、紙面の隅に版数の表示があるんです。縮刷版もフィルムも、そこは同じ数字でした。
もう一度上司に聞きました。
表示のまま製版されないこともある、と言われました。当時のことは分からない、とも言われています。私も、そこは分かりません。
気になって、他の日付も見ました。
仕事の合間です。手が空いたときに、縮刷版とフィルムを同じ日付で並べて、三面だけ見比べていきました。
三か月ぶんくらい見ました。
ほとんどは一致していました。細かい違いは何件かありましたけど、広告の差し替えとか、写真のトリミングとか、説明のつくものでした。
一件だけ、同じ形のものがありました。
別の年の三面です。縮刷版にあって、フィルムに無い。三行で、見出しなし。山の中で人が見つかった、という趣旨でした。
文面はほとんど同じでした。
町名が違います。それ以外は、助詞まで同じでした。二件とも、名前も年齢も書かれていません。
日付は四年離れていました。
月は同じです。日は違いました。曜日も違います。そこに規則があるのかどうかは、まだ分かりません。
問い合わせの方には、頼まれた記事だけ出しました。
三行のことは伝えていません。関係のない話ですし、私の見間違いという可能性も残っています。
次は、他の年の同じ月を全部見るつもりでいます。
縮刷版は書架にあります。フィルムはリーダーが一台しかないので、時間はかかると思う。それでも、あと何件あるのかは知っておきたいです。