封鎖された旧犬鳴トンネルへ肝試しに行って、帰りの車が手形だらけになっていた話
Tさん(仮名・34歳男性・会社員)から、メールで届いた話。学生のころの体験だという。場所は有名なところなので伏せないが、一緒に行った3人の名前は伏せる。
大学2年の夏。自分を入れて4人で、肝試しに行きました。福岡の、犬鳴峠の旧トンネル。
今は新しいトンネルが通っていて、旧道のほうは通行止め。旧トンネルは、コンクリートで完全に塞がれている。それも行く前から知っていました。
塞がってるなら、何も起きないだろう。それくらいの、軽い気持ちでした。
夜の11時すぎ。車で、旧道の入口へ向かいました。
ゲートの手前に車を停めて、運転してきたAだけ残り、自分を含めた3人で、懐中電灯を持って歩いていきます。
旧道は、思っていたより長い。両側から木が覆いかぶさって、それ自体がトンネルみたいになっている。アスファルトのひび割れから、草が伸びていました。
15分ほど歩くと、旧トンネルの入口に着きました。
本当に、塞がれている。灰色のコンクリートの壁。スプレーの落書き。湿った、土のにおい。
正直、拍子抜けでした。壁を写真に撮って、じゃあ帰るか、と引き返す。
時刻は、ちょうど0時を回ったころ。月も出ていない、暗い夜でした。
おかしくなったのは、その帰り道です。
後ろから、ジャッ、ジャッ、と、砂利を踏む音がした。
3人とも、足を止めました。音も、止まる。振り返っても、光の輪の中には誰もいない。
気のせいだろう、と歩き出すと、また聞こえる。ジャッ、ジャッ。さっきより、速い。自分たちの歩くペースより、明らかに速いんです。
誰からともなく、走り出しました。3人で、ゲートまで一気に。
車に飛び込むと、運転席のAが、真っ青な顔でこっちを見ている。
お前ら、3人で行ったよな。Aは、低い声でそう言いました。
そうだ、と答えると、Aは妙なことを口にする。さっき、4人ぶんの足音が戻ってきた。だからもう1人増えたんだと思って、後ろのドアを開けて待っていた、と。
何も言わずに車を出して、峠を下りました。
後部座席の真ん中に座っていたBは、帰りのあいだ、ずっと黙ったまま。
家に着いてから、ようやく口を開きました。ずっと右隣に、誰か座ってた。濡れてた。そう言って、それきり話さなくなった。
次の朝。Aから、写真が送られてきました。
おはよう、の一言もなく。写真だけが、何枚も。
車のボディが、手形だらけ。小さい、濡れたような手の跡が、ドアにも、ボンネットにも、いくつも。
屋根の上にも、ついていました。誰も手の届かない、高さです。
あれから、もう10年以上たちます。あのときの4人で集まることは、今もたまにある。
でも、あの夜のことだけは、誰も話しません。