十年ぶりに会った同級生の話

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十年ぶりに会った同級生の話

Eさん(仮名・28歳男性・関東のメーカーで技術職)から、サイトの体験談フォーム経由で届いた話。2026年3月に最初の投稿があり、その後DMで3往復、追加で取材させてもらった。仮名・地名のぼかしを条件に、掲載の承諾をもらっている。

これは去年の秋、俺の高校の卒業10周年の同窓会の話なんですけど。

俺はいま27歳で、都内の中堅のIT企業に勤めてます。社内SE寄りのインフラ部門で、入社して5年目。

出身は埼玉で、地元の県立高校から都内の大学に進んで、就職もこっちなので、地元には盆と正月くらいしか帰ってません。同級生とのつながりも、年に何回かのLINEがあるくらいなんです。

幹事の女子から連絡が来たのが、9月の頭です。11月の3連休の中日に、地元駅近くのホテルの宴会場で、当時の学年100人ちょっとが集まる、という話だそう。

俺は別に行く気は強くなかったんですけど、Aが来るらしい、と聞いて行くことにしたんです。

Aは高校時代、俺の1番の親友です。1年から3年までずっと同じクラスで、サッカー部も1緒で、放課後は週4でファミレスにいたんです。

卒業後はAが関西の大学に進んで、就職も大阪の会社に入ったらしいです。LINEは続いてたんですけど、お互い何となく途切れて、ここ5年くらいはほとんどやりとりがありません。

10年ぶりに会えるのは、純粋に楽しみで。

当日、宴会場に着いたら、Aはもう先に来てました。スーツの上着を椅子の背にかけて、別のテーブルの女子たちと話してます。

俺が声をかけると、おう久しぶり、と笑って手を上げました。雰囲気は高校の頃のままに見えたんです。

立食形式の本会は2時間で終わります。Aと俺は、2次会は2人で軽く飲もう、という話になって、駅前の大衆居酒屋に移ったんです。

半個室で、ハイボールを頼んで乾杯したのが9時前くらい。

最初の30分は、本当に普通だったんです。担任の口癖の話とか、隣のクラスの誰々がもう3人目を産んだとか、懐かしい話で盛り上がります。

Aは昔と同じテンポで喋ってました。

違和感が出てきたのは、サッカー部の話になってからです。

Aが、あの県大会の準決勝、と切り出しました。

俺らの代の準決勝はPK戦の末に負けた試合で、俺はそれをずっと覚えてます。

Aが言うには、あれは延長で逆転して勝った試合で、次の決勝で負けたんだ、ということなんです。

俺は、いやPKで負けたよ、と笑って返したんです。Aは少し首をかしげて、いや勝った勝った、と言い直してきました。

記憶違いだろう、と思って、それ以上突っ込んでません。

次に修学旅行の話になりました。俺らは3年の春に京都と奈良に行ってます。

Aが、俺らあの時さ、夜にホテル抜け出してコンビニまで歩いた話覚えてる、と言ってきます。

俺はその話に覚えがありませんでした。

抜け出したのは別のクラスのやつらの話で、俺とAはそのとき部屋でゲームをしてたはずです。

Aは、いやお前と2人で行ったって、と笑いながら、その時に買ったアイスの種類まで言ってきました。

俺は段々、笑えなくなってきたんです。

そのあとも、Aの言う『俺らあの時さ』のエピソードが、何個も俺の記憶と合いません。

文化祭の出し物、2年の席替えで誰の隣か、卒業式のあとの打ち上げの場所、全部少しずつズレてます。

Aは確信を持って話してます。俺の方が間違ってるのかも、と一瞬思ったんですけど、自分の記憶の方が違う、と思える種類の話ではありません。

俺はスマホを出して、さっき本会で撮った集合写真を見せました。

最前列の右から3番目に、Aが普通に写ってます。これさっき撮ったやつ、と俺が言うと、Aはちらっと画面を見て、これ俺じゃないよ、と言いました。

冗談のトーンでもなくて、ただ事実として言ってる感じ。

マジで何を言われてるのか分かりませんでした。

俺はその場で軽く話を流して、お会計をして店を出ました。

Aは駅まで1緒に歩いてきます。改札の前で、また飲もう、と普通に手を振って別れたんです。

家に帰る電車の中で、卒業アルバムのデータをスマホで開きました。

3年の時のクラスのページで、Aの顔写真をじっと見ます。

さっき店で向かいに座ってたのは、確かにこの顔の人。眉の形も、笑った時のえくぼも、全部1致してました。

次の日、AにLINEを送りました。昨日はありがとう、というだけのメッセージ。

既読はつきません。1週間経っても、1ヶ月経っても、つきませんでした。電話をかけても、出ません。

気になって幹事の女子に確認しました。Aは本会に来てたよね、と。

幹事は、来てたよ、お前ら2人で居酒屋行くって言って先に出てったじゃん、と返してきます。当日のグループLINEのスクショも送ってくれました。Aの発言が残ってます。

結局、俺があの夜、本物のAと2人で居酒屋に行ったのか、別の誰かと行ったのか、いまも分かりません。

Aとは連絡が取れないままです。共通の知人経由で聞いた話だと、Aは大阪で普通に働いていて、こっちには10年ぶりに同窓会で帰ってきただけ、ということでした。

あの夜から、俺は同窓会に出るのをやめたんです。

次の15周年も20周年も、たぶん行かないと思います。地元の駅で降りるのも、あの居酒屋の前を通るのも、避けるようになりました。

たまに、街中ですれ違う人の中に、当時の同級生に似た顔の人を見ることがあります。

本人ではないと頭では分かってます。それでも、目に入った瞬間に体が1回固まって、しばらく動けなくなります。

あの夜の向かいの席に座ってたのが、本物のAだったのか、別の誰かだったのか、それを確かめる方法は、もうありません。

― 取材記録 ―

受け取り日

2026年3月(投稿フォーム経由)

追加取材

DMで3往復

掲載許可

仮名・地名ぼかし条件で承諾

編集

高校名・同級生の名前・同窓会会場を本人の希望で伏字。本筋は手を加えていない

― 三人のひとこと ―

すみ親友のはずなのに記憶噛み合わない時点で、もう二次会の店出ていいんですよ。

こわまるうひゃあ、十年ぶりの親友が違う人になってるの、ホラー映画で一番きついやつだよぉ……!

チヨ同窓会の二次会、あれは過去と現在が混ざる時間帯。気づいた時には遅いんだよね。

この話、どうだった?

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