看護学校で先輩から聞いてた話

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看護学校で先輩から聞いてた話

Nさん(仮名・34歳女性・関東の総合病院で看護師)から、サイトの体験談フォーム経由で届いた話。2026年3月に最初の投稿があり、その後DMで4往復、追加で取材させてもらった。仮名・地名のぼかしを条件に、掲載の承諾をもらっている。

これは私が看護学校に通ってた頃から、代々先輩に教えられてた話なんですけど。

私はいま28で、関東の中規模の総合病院で病棟看護師をしてます。経験は5年目で、ようやく後輩がついてきたところです。

看護学校は地元の専門学校に3年通って、21の春に資格を取ったんです。

実習は2年生の後半から本格的に始まって、いくつかの病院を回るんですけど、その中でメインの実習先になっていたのが、いまの勤務先とは別の、地元の中規模病院です。

その病院は本館と東館の2棟構成で、東館の方が古い建物だったんです。

実習生はだいたい東館の3階の混合病棟に配置されることが多くて、私もその病棟で長い実習を1回受けています。

先輩というのは、看護学校の2つ3つ上の代の人たちで、合同実習の打ち上げや、サークルの追いコンで、よく実習先の話を聞かせてくれる人たちです。

その先輩たちから、2年生のときに最初に言われたのが、東館3階の7号室の話なんです。

7は4床部屋で、窓際の1床、廊下から見て右奥のベッドに、年配の男性がいることがある、と先輩は言ってました。

実習中の見回りや受け持ちの記録のために部屋に入ると、いるはずのない患者さんが布団をかけて寝ている、というだけの話です。

声はかけない、体に触れない、指導者にだけあとで報告する、と。

報告しても指導者は「ああ」と言うだけで、それ以上は何も説明してくれないそうです。

先輩の話では、自分の代も、その上の代も、さらに上の代も、毎年の実習で誰かが必ず1回は見てる、ということなんです。

受け持ち患者の入れ替わりの時期に集中して見つかるらしいです。

退院や入院の動きで看護師の意識が抜ける瞬間に、その窓際の1床が動く、と。

先輩自身も2年生の実習で見たと言ってました。布団の盛り上がりと、枕の上の白髪と、薄い肩のラインだけを覚えてる、と話してくれました。

看護学校では、その手の話は新しい代に必ず伝えられる決まりみたいになっていたんです。

怖がらせるためというより、業務として混乱しないように、という意味合いの方が強かったです。

実習中にいないはずの患者を見ても、声をかけずに、まず指導者に確認に行く。

これは7だけじゃなく、医療現場全般のルールとしても自然な動きなので、新人にとってもそんなに違和感のある教え方ではありません。

私自身は、3年生の実習で東館3階に入ったときに、一度だけ薄い経験をしてるんです。

深夜帯のラウンドの同行で、指導者の主任さんと1緒に7のドアを開けた瞬間に、窓際のベッドのナースコールのランプが点いたんです。

点いたと思った次の瞬間にすっと消えて、コール履歴にも残ってません。

主任さんは私の方を見て、いまの見えた、と聞いてきたんです。

私は、はい、と答えたと思います。主任さんはそれ以上何も言わずに、次の部屋に進んでいきます。

私が7で見たのはそれだけで、布団の中の人までは見ていません。

同じ実習班だった同級生のうち、2人は窓際のベッドの盛り上がりを見たと言ってるんです。

1人は受け持ちの記録を取りに昼間に入ったときで、1人は朝のおむつ交換の準備で入ったとき、と。

どちらも、声はかけずに退室して、指導者に伝えたそうです。指導者の反応は、私が聞いた時と同じで、ああ、とだけ言って次の指示に移った、と聞きました。

看護学校を卒業してから、私は別の病院に就職したので、東館3階のその後がどうなってるかは直接は知りません。

卒業後の同窓会で、後輩の代の子たちにも1応聞いてみたんですけど、7の話はいまも続いてるそうです。

私の2つ下の代も、4つ下の代も、それぞれ誰かが見てる、と言ってるそうです。

話の内容は私たちの代と同じで、年配の男性、窓際、白髪、布団の盛り上がり、声はかけない、というところまで揃ってるそうです。

面白いというと変なんですけど、いまの勤務先でも、似た話は聞きます。

うちの病棟でも、特定の病室の特定のベッドで、申し送りに載っていない患者を見たという話が、年に1回か2回、誰かから出ます。

先輩の看護師は、ああ、あの部屋ね、と言うだけで、深く取り合いません。

新人の頃の私と同じで、新しく入った後輩は、そういうものなのかな、と一度受け止めて、業務に戻ります。

看護師の間では、こういう話はそんなに珍しくないらしいです。

同期の集まりで他の病院の話を聞いても、必ずどこかの病棟に、似た位置のベッド、似た年代の患者、似た輪郭の話が1つずつあります。

先輩から後輩に、業務上の注意として淡々と伝えられている、というところまで共通してます。

私はあの7のベッドにいたのが誰なのかは、いまも知りません。

記録を見る権限ももうないですし、見たいとも思いません。

看護学校の代々の先輩たちが、それぞれの実習で見て、それぞれの後輩に伝えて、いまもどこかで続いている、という事実だけが、自分の中に残っています。

勤務先でその手の話を聞くたびに、ああ、ここでも代々続いてるんだな、と思うだけで、特別に怖いとは思いません。

慣れた、というよりは、業務の中にそういう枠が1つある、という感覚に近いと思います。

― 取材記録 ―

受け取り日

2026年3月(投稿フォーム経由)

追加取材

DMで4往復

掲載許可

仮名・地名ぼかし条件で承諾

編集

看護学校名・所在地・先輩看護師の名前を本人の希望で伏字。本筋は手を加えていない

― 三人のひとこと ―

すみ看護学校で代々先輩から後輩に申し送られる病室、教育課程に入れていいレベルの情報量でしょ。

チヨ実習先の特定病室の話。看護師業界で語り継がれる話は、大体カルテの外側で起きてる。

こわまるうひゃあ、看護師の世界で代々語られる病室って、現場の人が一番真に受けてるやつだよぉ……ぴゃっ!

この話、どうだった?

こっちにも、もうひとつ

地元の田舎道にある古い自販機の話

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