中学のとき同級生から聞いた地元の峠の話
Gさん(仮名・39歳男性・九州地方で土木関係の自営業)から、サイトの体験談フォーム経由で届いた話。2026年2月に最初の投稿があり、その後電話で1回(約45分)、追加で取材させてもらった。仮名・地名のぼかしを条件に、掲載の承諾をもらっている。
これは俺の地元で、昔から言われてる話なんですけど。
俺は北関東の山間部にある小さな町の出身で、高校までずっとそこにいたんです。いまは派遣のプログラマで都内に住んでます。
実家は町境に近い集落で、家の裏から細い道を上っていくと、隣町に抜ける峠の旧道に出ます。
いまはトンネルが通ってるので車はそっちを通るんですけど、旧道は地元の年寄りが山菜採りに使ったり、中学生がたまに自転車で抜けたりする程度です。昔は炭焼きで使ってた道らしいです。
その旧道の途中、峠を越えたあたりに、小さい祠があります。
屋根の苔がぼろぼろで、中の石も何の石なのか分からないくらい黒くなってるんです。
誰が祀ってるのかも、はっきりしません。
地元の人間は子供のころから、その祠を過ぎたあとは絶対に振り返るな、と親に言われて育ちます。
理由は誰もちゃんと説明してくれません。とにかく振り返るな、というだけで、それで通ってきた土地です。
俺がこの話を1番きちんと聞いたのは、中学2年のとき。
同級生のタケちゃんという友達が、自分の2つ上の兄ちゃんの体験を話してくれたんです。
タケちゃんの兄ちゃんは当時高校1年で、学校帰りに友達と肝試しのつもりで旧道に入って、祠の前まで行ったらしいです。
日が落ちる少し前で、まだ完全に暗くはなってなかったそうです。
祠を過ぎて10メートルくらい歩いたところで、後ろから、小さい子供の声で名前を呼ばれた、と兄ちゃんは言ってたそうです。
低学年くらいの男の子の声で、はっきり兄ちゃんのフルネームを呼んだ、と。1緒にいた友達には聞こえてません。
兄ちゃんはとっさに振り返ろうとしたんですけど、隣の友達が腕をつかんで、振り返るな、絶対に振り返るな、と言って、2人で峠を抜けるまで走ったそうです。
家に帰った晩、兄ちゃんは39度近い熱を出して、3日寝込んだと聞きました。病院では風邪としか言われなかったそうです。
タケちゃんが言うには、兄ちゃんはそれ以来、旧道には絶対に近づきません。
社会人になって地元を離れたあとも、帰省で実家に戻った時に、家の裏の道の方を見ようとしないらしいです。
その話を聞いてから、俺もタケちゃんも、旧道に近づくのはやめました。
中学のうちは、その手の話は同級生の間でちょくちょく回ってたんです。
誰々の親戚が祠の前で写真を撮ったら1週間体調を崩したとか、登山サークルの大学生が振り返って山の中で迷ったとか、出所のはっきりしない話がいくつもありました。
確かめようがないので、半信半疑のまま、振り返るな、というルールだけが共通認識として残ってきた感じです。
俺自身は、あの祠を過ぎたあとに何かが起きたことはありません。中学を出てからは旧道を通る用事もなくなりました。
だから自分の話としては、何もないんです。
ただ、去年の夏、地元で同窓会があったときに、また話が出ました。
集まったのは中学の時のクラスの8人くらいで、町に残ってる奴も、都内に出た奴もいたんです。
酒が入って、誰が言い出したのか、あの祠の話になりました。
その場で、2人がぽつぽつ自分の話をし始めました。
1人はずっと地元に残って役場に勤めてる奴で、消防団の夜警で旧道の入り口あたりまで車で行ったとき、ヘッドライトに白いものが横切ったと言ってました。
子供くらいの背丈で、すぐ消えたそうです。
同乗してた先輩の団員は、何も言わずにそのまま引き返したらしいです。先輩は地元の人で、たぶん知ってたんだと思う、とその奴は言ってました。
もう1人は、俺と同じで都内に出た同級生で、結婚して子供が生まれたあと、家族で帰省したときに親父さんと旧道の入り口を通ったら、子供がぐずって動かなくなった、と話してました。
普段はそんなことのない子で、その日だけ、入り口の手前で泣き出して進めなかったそうです。
親父さんは黙って車のほうに引き返した、と。家に着いてから、あの道は通らなくていい、と1言だけ言ったらしいです。
同窓会の場では、結局、何が祀られてるのか、何の声なのか、誰の名前を呼んでくるのかは、誰も分かっていませんでした。
地元の年寄りに聞いても、振り返るな、ということしか言わないそうです。
お祭りやお参りの対象でもなくて、ただ、過ぎたあとに振り返らない、というルールだけが、何代も前から残ってる感じです。
ネットで検索したことも、何度かあります。町の名前と祠で調べても、それらしいページは出てきません。
観光地でもなく、心霊スポットとして紹介されてるわけでもないです。地元の人間以外には、たぶん知られてません。
俺はこの話を、自分の体験として持っているわけではないです。
タケちゃんの兄ちゃんの話、同窓会で聞いた2人の話、子供の頃に親に言われたルール、その積み重ねでしかありません。
ただ、何人もが似たような輪郭の話をして、そのたびに、振り返るな、という同じ結論に行き着く、というところだけが、地元では共有されてます。
実家にはいまも年に1、2回帰ってます。
家の裏の道の方は、なんとなく、見ないようにしてるんです。
見ないようにしてる、というよりは、子供の頃からそういう向き合い方で育ったので、いまさら向き直る理由がないだけかもしれません。
― 取材記録 ―
受け取り日
2026年2月(投稿フォーム経由)
追加取材
電話で1回(約45分)
掲載許可
仮名・地名ぼかし条件で承諾
編集
峠の所在地・地元の集落名・同級生の名前を本人の希望で伏字。本筋は手を加えていない
― 三人のひとこと ―
チヨ中学時代の同級生から聞いた峠の話。地元では数十年前から知られてるパターンの典型だね。
こわまるぴゃっ、北関東の山間部の峠とか名前聞いただけで嫌な予感するんだってばぁ……!
すみ「自分は直接体験してない」って前置きが入る話、大体最後に語り手も体験してるオチですよね。
この話、どうだった?