地元の田舎道にある古い自販機の話

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地元の田舎道にある古い自販機の話

Kさん(仮名・32歳女性・関東の医療事務(実家は東北の郊外))から、サイトの体験談フォーム経由で届いた話。2026年1月に最初の投稿があり、その後メールで2往復、追加で取材させてもらった。仮名・地名のぼかしを条件に、掲載の承諾をもらっている。

これは実家の近くの話で、私の地元では昔から知られてる古い自販機のことを書いてみます。

私は東北の小さな町の出身で、高校を出てから県内の別の市の専門学校に行って、そのあと地元に戻って役場に勤めました。

いまは住民課にいて、窓口で証明書の交付や転入転出の手続きをやってます。45になります。

実家は町の中心から少し外れた集落で、車で5分も走れば田んぼと雑木林しかない景色になります。

その田んぼと雑木林に挟まれた1本道、隣の集落に抜ける県道の途中に、古い自販機が1台だけ立ってます。

昔はそのあたりに小さな商店があって、自販機はその店の脇にあったらしいんですけど、私が小学校に上がるかどうかの頃には、もう商店は閉まってました。

建物も取り壊されて、いまは自販機だけが、雑草の生えた路肩にぽつんと残ってます。

その自販機は、地元の人間からすると、止めてある自販機です。

電源は来ていないはずだ、と父から聞かされて育ったんです。

商店が潰れた時に業者がコードを抜いたまま置いていった、という話を、近所の年寄りはみんなしてました。

だから普段は、ただの古い箱です。塗装が剥げて、商品サンプルの窓も色が褪せて、銘柄が読めません。日中、横を通っても、何の音もしません。

ただ、深夜だけ、点くらしいんです。

これは中学生の頃、同級生のヤマちゃんという友達から聞きました。

ヤマちゃんの父親が夜勤明けの帰り道、午前3時くらいにあの自販機の前を車で通ったとき、ランプが点いて、低い唸りが聞こえたそうです。

窓の中の缶も、ちゃんと光ってたと話してました。

父親はびっくりして、ブレーキを踏みかけたんですけど、後ろの席のおばあちゃんが、止まんなくていい、買わなくていい、とだけ言ったらしいです。

家に着いてからも、その話はそれっきりで、おばあちゃんは説明をしませんでした。地元の年寄りは、そのへんの感じを子供や孫にあまり話さない人が多いです。

私自身は、深夜にあの道を通ったことがほとんどありません。

役場勤めなので、夜中に車で町外れまで行く用事もないんです。

だから自分の話としては、点いてるのを見たことがある、というところで止まってます。

父も同じで、見たことはあるけど買ったことはない、と言ってました。

後悔した、という話のほうは、職場のほうから入ってきます。

うちの町は、最近こそ少し観光客が来るようになりました。

近くの渓谷に紅葉の名所があって、秋になると県外ナンバーの車がぽつぽつ走ってます。

役場の窓口にも、道を聞きに来る観光客や、落とし物の相談で来る人がいます。その流れで、自販機の話が何度か出てきます。

3年くらい前に、40代くらいのご夫婦が窓口に来て、深夜に県道沿いで缶コーヒーを買ったら、家に帰ってから旦那さんが高熱を出して、缶も捨てたのに気持ち悪くて眠れない、と話してました。

場所を聞いたら、ちょうどあの自販機のあたりだったんです。

私は地元のことなので、あそこは止まってる自販機なんですけど、と言いかけて、口をつぐみました。買えたんだから止まってない、ということになります。

奥さんは、缶がやけに冷たかった、と話してました。秋でしたけど、握っていた手がしびれるくらい冷たかったそうです。

同じような相談は、それまでにも先輩の職員が何件か受けてたそうです。

1人旅の若い男性が、明け方に自販機で水を買って車に戻ったら、後部座席に置いた覚えのない小銭が散らばっていた、という話があったらしいです。

別の年には、釣り客のグループが、深夜にジュースを買って飲んだあと、そのうちの1人だけ、しばらく耳鳴りが取れなかった、と話してました。

どれも、警察に届ける筋の話でもないので、相談だけして帰っていったそうです。

地元の人間で、あの自販機を使ったという話は、私の知る範囲では聞いたことがありません。

子供のころから、止めてある自販機、と言われ続けて育つので、深夜に点いていても、買おうという発想にならないんだと思います。

観光客の方は、ただの古い自販機が深夜に点いてる、というふうに見えるんだと思います。実際、見た目だけならそうなんです。

役場の中でも、その話は積極的にはしません。

あの自販機を撤去してくれ、という要望が住民から出たことはなくて、出ないかぎり町としては動きようもない、というのが先輩の説明でした。

電源の所有者がもうはっきりしないので、誰の責任で止めるのか、という話にもなるそうです。

私は仕事で町外れの調査に行くとき、車であの自販機の横を通ります。

日中はやっぱり、ただの古い箱です。塗装の剥げ方も、雑草の高さも、子供のころからほとんど変わってないように見えます。

深夜のことは、自分では見にいきません。父も見にいきません。

観光客の方には、なんとなくあのへんの自販機は使わないでください、と言いたいんですけど、窓口で初対面の人に言える話でもないので、結局、何も言えていません。

地元では、あれは止めてある自販機、というところだけが、何代も前から共有されてます。

― 取材記録 ―

受け取り日

2026年1月(投稿フォーム経由)

追加取材

メールで2往復

掲載許可

仮名・地名ぼかし条件で承諾

編集

自販機の所在地・国道番号・近隣の屋号を本人の希望で伏字。本筋は手を加えていない

― 三人のひとこと ―

チヨ田舎道の古い自販機、観光客が買って後悔するパターン。地元のルールが効かない人だけが当たるやつ。

すみ役場の住民課が長い人が「観光客が後悔」って軽く言うの、住民の方々が黙ってる理由ありそうですよね。

この話、どうだった?

こっちにも、もうひとつ

中学の頃、地元で流行ってた噂の話

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