嫁ぎ先の集落で言われた話
Vさん(仮名・44歳女性・嫁ぎ先で農業を手伝う傍ら、小学校で給食調理の仕事)から、サイトの体験談フォーム経由で届いた話。2026年2月に最初の投稿があり、その後電話で1回(約50分)、追加で取材させてもらった。仮名・地名のぼかしを条件に、掲載の承諾をもらっている。
これは絶対に他所に話してはいけない、と義母に言われた話なんですけど。もし読んで気分が悪くなったら、途中で閉じてください。
私はいま三十五で、結婚で田舎に嫁いで三年になります。
実家は東京で、結婚前は都内の事務をしてたんです。主人の家は、関東の山寄りの小さな集落で、組内が十軒くらいの古い土地。
義父母と同居していて、私は近くの工場で週四のパートに出てます。お寺さんとのつきあいや組の寄合があって、嫁いだ最初の年はそれだけで一年が過ぎた気がします。
主人の家の裏に、古い竹藪があるんです。
家の裏口から田んぼ沿いを少し歩いた、集落のいちばん奥のあたり。誰の持ち物なのか、義父に聞いても、はっきりしません。
組内の地面でもないらしくて、固定資産税の話にもならない、ということだけ義父は言ってました。
竹は手入れもされていなくて、笹が下まで降りてきて、外からは中が見えないんです。
嫁いで一週間ほど経った頃に、義母に台所で言われたんです。
裏の竹藪には絶対に入るな、と。落ちた筍を拾うのもだめ、笹の手前で立ち止まるのもだめ、と。
理由は教えてもらえません。
義母は普段は穏やかな人で、私のことも丁寧に扱ってくれるんですけど、その時だけは目を合わせずに、いいから入らないでほしい、とそれだけ言いました。
そのあと、組内の集まりで、近所のおばあさんからも同じことを言われました。
新しい嫁さんには一応話しておくね、という感じで、裏の竹藪にだけは近づかないように、と。
集落の人は子供の頃から親に言われて育つので、誰も近づかないらしいです。よその人間に教えるのは嫁ぎ先の家の役目、ということになってる、と聞きました。
嫁いで一年目の秋に、義母から、義叔母さんの話を聞いたんです。
義叔母さんは主人の父の妹で、隣町に嫁いだ人。三十年ほど前、まだ若かった頃に、お盆で本家に帰ってきて、裏の竹藪に筍が出てるのを見て、入りかけたことがあるそうです。
あと三歩で笹の中に入る、というところで、義母が気づいて呼び止めて、それで戻ってきたんだそうです。
義叔母さんはその夜から熱を出して、隣町の家に戻ってからも一月ほど寝込んだそうです。
原因は分からなくて、医者にかかっても風邪だろうと言われただけ、と義母は言ってました。
義叔母さんはそれ以来、本家に帰ってくるときは、家の裏の方は見ないようにしてるそうです。
義母が私にこの話をしたのは、嫁いで一年経って、私が裏口の方に出る用事が増えてきた頃なんです。前もって話しておく、という感じでした。
その冬の終わり頃、私自身も一度、おかしな夜がありました。
主人が出張で家にいない日で、義父母は隣の和室で寝てたんです。
夜中の2時くらいに目が覚めて、台所に水を飲みに降りたら、裏口のガラス戸の方から、笹がこすれる音がしてます。
風はない夜なんです。
私は最初、猫か狸が来てるんだろうと思って、ガラス戸の鍵を確認しに行きました。
鍵の前に立った時、自分の手がサンダルを履こうとしてるのに気づいたんです。
外に出るつもりはなかったんです。ただ鍵を見るだけのつもりだったのに、足の方が裏口の三和土に降りてます。
その時、和室の引き戸が開いて、義母が立ってました。義母は私の名前を呼ばずに、上がりなさい、とだけ言ったんです。
私はサンダルを脱いで、台所の椅子に座らされました。
義母はそのままお湯を沸かして、お茶をいれてくれました。何も聞かずに、ただ向かいに座ってます。
三十分くらい経って、笹の音は止みました。義母は、もう寝なさい、と言って和室に戻ったんです。何があったのか、義母は今も話してくれません。
その夜のあとから、私は二週間くらい体がだるくて、微熱が続いたんです。お医者さんでは原因が分からなくて、自然に治りました。
義母には何も話してません。義母も聞いてきません。
あとから組内のおばあさんに少しだけ聞いた話では、過去にも嫁いできた人が同じような夜を経験してるらしくて、止められずに入ってしまった人もいるそうです。
その人は若くして亡くなった、とだけ聞きました。名前は教えてもらえません。集落では、その人のことを、裏に行った人、という言い方で呼ぶ、と聞きました。
私はいま、裏口にはなるべく出ないようにしてます。洗濯物は前庭に干して、ゴミ出しも表の道から行きます。
義母から言われたわけではなくて、自分でそう決めたんです。
集落の決まりとして、家の裏の竹藪には誰も近づかない、それだけが代々続いてる感じ。何があるのか、何が祀られてたのか、義父も義母も知らない、と言ってます。
主人にもこの話の細かいところは話してません。話していい話ではない、と義母に言われたからです。
ここまで書いて、自分でも書いてよかったのか、まだ分かりません。もし似た土地に縁のある方がいたら、深入りしないでください。それだけです。
― 取材記録 ―
受け取り日
2026年2月(投稿フォーム経由)
追加取材
電話で1回(約50分)
掲載許可
仮名・地名ぼかし条件で承諾
編集
集落名・所在地方・義家の屋号を本人の希望で伏字。本筋は手を加えていない
― 三人のひとこと ―
こわまるぴゃっ、「絶対入るな」って言われた竹藪に近づこうとしないのが正解だよぉ、近づいた人ほぼアウトじゃん。
チヨ山あいの集落の言い伝え、あれは守ってる人が一番長生きする。よく分かってる嫁ぎ方だね。
すみ親戚で何人も病気になってる地区を「裏」って呼んでる時点で、不動産用語じゃないんですよ。
この話、どうだった?