夜勤中、空き病室にいた人の話

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夜勤中、空き病室にいた人の話

Sさん(仮名・38歳女性・現在は道東の別の総合病院で日勤の看護師)から、サイトの体験談フォーム経由で届いた話。2026年3月に最初の投稿があり、その後メールで3往復、追加で取材させてもらった。仮名・地名のぼかしを条件に、掲載の承諾をもらっている。

これは私が20代の終わり頃、道東の総合病院で夜勤に入ってた時の話なんですけど。

私はそこの病院に新卒で入って、7年目の夏まで勤めてたんです。北海道の東の方で、もとは炭鉱の町だったところに建ってる病院。

閉山したのが昭和の終わりで、町の人口は当時の10分の1くらいまで減ってたと思います。

それでも周辺の集落から患者さんが来るので、内科と整形と外科だけは残されていて、規模のわりに夜勤帯はそれなりに忙しかったんです。

建物は古い棟と新しい棟に分かれてます。新しい棟は平成に入ってから建て増した3階建てで、私たちが日常使ってるのはほとんどこっちでした。

古い方は西病棟と呼ばれていて、もとは炭鉱で働く人とその家族のための病院だった頃の建物らしいです。1階の1部がリハビリ室と倉庫に使われていて、2階より上は基本的に閉めてました。

患者さんが増えた時だけ、2階の1部を一般病床として開ける、という運用。

その夜は、その西病棟の2階に3人だけ患者さんが入ってました。8月の盆明けで、新しい棟が満床になってたんです。

夜勤は私と、2年目の後輩の2人体制。後輩は新棟の方を担当して、私が西病棟の見回りに回ることになります。

主任からの申し送りで、2階の3号室は今日の朝に退院が出たので空床、奥の5号室の女性は不眠が強いから様子見て、と言われてました。

夜中の2時の見回りです。

西病棟は廊下の蛍光灯を半分落としてあって、足元灯だけで歩きます。私はカートを押さずに、懐中電灯と申し送りメモだけ持って上がります。

エレベーターは古いやつで、夜は止めてあるので階段で行きます。階段室はコンクリートが剥き出しで、夏でもひんやりしてたんです。

2階に着いて、まず手前の1号室を覗きました。男性の高齢の患者さんで、よく寝てる。点滴の落ちも問題ないので、扉を半分閉めて次に移ります。

次が3号室。空床のはずの部屋。

扉は普段から少し開けてあって、中が見えるようになってました。私は習慣で、空床でも一応中を見ます。

ベッドが4床ある大部屋で、窓際の1床が、朝に退院した方が使ってたところ。

その窓際のベッドに、人が寝てました。

シーツの上に布団がかかってて、頭の方が少しだけ盛り上がってます。輪郭からすると、たぶん年配の女性。白髪が枕の上に少し見えてました。

私は、申し送りで聞いてないけど夕方に入院が入ったのかもしれない、と思ったんです。それで一度ナースステーションに戻って、当直の入院記録を確認しようとしました。

階段を降りる途中で、足が変に重たくなって、踊り場で1回立ち止まったんです。

何かおかしいと頭の中では思ってたんですけど、それが何かは、その時はまだはっきりしません。

ナースステーションに戻って記録を見ると、夕方以降の入院はありませんでした。後輩にも聞きます。

後輩は、西病棟は今日は3人のままです、と。

私は、3が空床のはずなのに人が寝てた、と言いました。後輩は変な顔をして、もう一度1緒に見に行きますか、と言ってくれます。

2人で西病棟の2階にもう一度上がりました。

3号室の扉は、私がさっき開けたままになってます。中に入って電気をつけました。

窓際のベッドは、ぴったりシーツが張ってあって、布団は綺麗に畳んであります。誰も寝ていません。シーツに皺もない。

後輩は、見間違いじゃないですか、と言ってきます。私は、はい、と答えるしかありません。

ただ、自分の中では見間違いだとは思ってませんでした。輪郭も、白髪の感じも、ちゃんと覚えてます。

怖いというより、申し送りに載っていない患者がいた、ということが、業務として気持ち悪かったんです。

その後、5号室の女性の様子だけ見て、2人で新棟に戻ります。残りの夜勤は何事もなく終わってます。

朝の申し送りで、一応主任にだけ昨夜のことを話しました。主任はメモを取りながら聞いて、最後に少し黙ってから、あの部屋ね、と。それ以上は何も言いませんでした。

同期に後で聞いたところによると、西病棟の3号室では、私が入る前にも何度か似たような話があったらしいです。同期も一度見たことがあると言ってます。

窓際のベッドに、いるはずのない年配の女性が寝てる、という話で、いつも夜勤帯の見回りのときに見つかる、と。

皆あまり口に出さない決まりみたいになってて、新人の私には伝わってきませんでした。

その夏の終わりに、西病棟の2階は閉鎖されます。表向きは老朽化が理由でした。新棟の増床計画が出て、2階の患者さんは全員そっちに移されたんです。

私はその病院をその2年後に辞めて、いまは札幌の方で働いてます。

一度、用事があって町を通ったときに病院の前を通りかかったんですけど、西病棟の建物だけは取り壊されないまま残ってました。

窓は全部、内側からベニヤで塞いであって、2階のところだけ、ベニヤが新しい板に張り替えてあるように見えたんです。気のせいかもしれません。

ただ、その2階の窓のうちの1枚が、私が3号室の見回りに上がったときに見ていた、あの窓と位置が同じでした。

その建物がいまどうなっているのかは、知りません。あえて調べていないだけかもしれません。

― 取材記録 ―

受け取り日

2026年3月(投稿フォーム経由)

追加取材

メールで3往復

掲載許可

仮名・地名ぼかし条件で承諾

編集

病院名・病棟階数・同僚看護師の名前を本人の希望で伏字。本筋は手を加えていない

― 三人のひとこと ―

すみ空きベッドって書いてあるのに人がいる、そこ申し送りのレベルじゃないですよ。

こわまるやだやだ、夜勤の見回りでベッド埋まってたら一旦帰るわ……ぴゃっ。

チヨ西病棟、10年に一度こういう申し送りが回る。看護師さんの間では有名な話だね。

この話、どうだった?

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